370.稀代の悪女〜ミランダリンダside
「リアルサイコ」
ボソリと呟く公女の言葉が耳に届くけれど、意味はわからなかった。
こちらには相変わらず背を向けていて、表情がわからないわ。
もしかして、こんな時なのに……腐?
そう思いつつ、岩壁に沿うようにしながら、ジワジワと公女に近づく……教皇やフードの誰かに気づかれませんように!
「今、何と?」
教皇も公女の囁き自体は聞こえたのね。
言葉として聞こえていなかったのか、その意味がわからなかったのかの、どちらかみたい。
「いいえ、何でもないわ。
それで、そろそろ教えていただけて?」
「もちろんですよ」
教皇の、穏やかな声で了承してから語られていく内容は……正直信じられない言葉の数々よ!
横並びあたりまで移動し、近くから見るフードの誰かは相変わらず口元を弛ませているから、やっぱり教皇の協力者なのね。
「私が取り戻したい方は、貴女方の祖父母にあたる先代の四大公爵家と王が冤罪にかけ、死してなお稀代の悪女などと貶め、辱める方です」
「そう……それがベルジャンヌなのね」
公女は予想していたかのように話す。
私は……正直頭が混乱する。
ベルジャンヌは稀代の悪女のはずよ?!
冤罪って何?!
教皇は妄想に取り憑かれているんじゃ……。
いえ、それよりも公女はまるで稀代の悪女の真相を知っているかのような口ぶりね。
どうして?
四大公爵家の直系だから?
「ああ、もしかして知っていましたか?
そこの女から聞きましたよ。
貴女は聖獣ヴァミリアと関わりがあったようですね?
少し前に内々で処理された、ロブール家の養女が起こした事件。
あの時屋上にいた貴女は、姿を顕現させたヴァミリアに、連れ去られたそうじゃないですか」
「そう、やっぱりどこかから見ていたのね。
ヴァミリアは現在進行系で、素敵な読者様なの」
聖獣ヴァミリアに連れ去られた?!
この国で聖獣の姿をまともに見た人がいた事にも驚きだけれど、それが四大公爵家直系の公女なのにも驚愕する。
祝福を受けた私だって、聖獣の気配を感じる事はあっても、姿を見た事は1度もないもの。
他の祝福を受けた人からも、まともに姿を見たなんて話は聞いた事がない。
……引きこもりだから、あまり交流もないのだけれど……。
いえ、それより読者様って言ったわ?!
え、関係ってそっちの関係?!
この国で最古の聖獣のうちの一体ではないの?!
どのジャンル推し?!
お腹を愛おしそうに擦る公女のビックリ発言に、声を抑えるのがとっても大変よ!
「読者?
いえ、それ今はいいですね。
そうです。
あの日尊い犠牲によってこの国を真実、救ったのは姫様……ベルジャンヌ王女でした。
なのに奴らはいつものように、姫様の功績を諸悪の根源たる、あの薄汚い盗人王太子のものにした。
最期まで国ぐるみで姫様の功績を奪い、王太子の罪をなすりつけたのです」
淡々と話す教皇は、どこかゾッとする。
怒りを全身から滲ませているのに、口調も表情も穏やかで……怖い。
「だから私はあの方を呼び戻し、今度こそ、その功績に相応しい地位に就いていただきたい……」
「え、それは嫌」
「え?」
どうしてか公女が思わずといった様子で、心底嫌そうに口を挟んで止めてしまう。
教皇も戸惑って声を漏らしたわ。
ローブの誰かも軽く首を捻ったのだけれど?
「……いえ、なんでもないわ。
どうぞ、続けて?」
「え、ええ。
もちろん復活を初めから考えていたわけではありませんよ。
ベルジャンヌ王女は亡くなる少し前、髪を切られていました。
あの方の全てが灰となり、その灰すらも消えてしまったので、遺髪となってしまったそれを弔い、私1人くらいはあの方を悼み、見送りたいと思ったその結果です。
たまたまであってもその方法に辿り着いたのですから、私は本当に運が良かったのでしょう」
教皇は稀代の悪女を、いえ、きっとベルジャンヌ王女に敬愛を抱いているのね。
もしその方法に辿り着かず、ただ弔うだけに留まっていれば……後を追って命を絶っていたようにすら思わせる。
教皇から感じるのは、敬愛だけじゃない。
悲哀と恋慕、孤独と絶望……そして……後悔?
「それをベルジャンヌは望んでいるの?」
公女のこの言葉に、一瞬だけど教皇は傷ついた表情を見せたんだもの。
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