351.脱出ゲーム
『おかあさん、まっしろよ?
あそべなくなっちゃった?』
『そうねえ?』
『おうじとたいいんも、きえた?』
『そうねえ、消えたというよりは……』
いつからリンダ嬢は隊員になったのかしら。
部隊長は、もちろんドレッド隊長よ。
なんて思いつつ、頭頂部に向かって念話で答えを告げようとしたけれど、ふと、ひらめく。
『ふふふ、これも経験、いえ、脱出ゲームだと思えばいいわ!
ディア、まずは王子とリンダ嬢が本当にいないか、このまま目眩ましを使ったまま、この空間を壊さないようにして、調べてみてくれる?』
『だっしゅつゲーム!
たのしそう!
やってみる!』
今回のケースだと、少しコツがいるから、失敗すれば私がフォローしなくっちゃね。
とはいえディアの目眩ましは、随分と上手くなっている。
ほぼ毎日、私と登下校しているんだもの。
うちの子天才肌だから、当然よ。
けれどまだ少し粗のある状態。
だからもしかしたら、目眩ましの粗が大きくなるかもしれないわね。
一見すると何の綻びもない、真っ白なこの空間。
転移して違う場所に移るでもなく、私達は結界のようなこの空間に囲われている。
出たいなら、空間の起点か終点にある綻びを、まず見つけなければいけない。
簡単に言えば、布を縫った糸ね。
玉止めを探して、それを解かずに隙間から自分の魔力を通して、空間の外を探るの。
空間を綺麗に何の反発もなく崩したいなら、玉止めを切ってしまえばいいし、力技も可能よ。
けれどこの空間の意図がわからないから、力技は1番避けたいの。
もしかしたら、立ち入り禁止場所に私達が勝手に踏みこんだ可能性もあるし。
あの時、ナックス神官が不服そうな、戸惑っているような感じだったもの。
ディアにも良い経験となるでしょうし、丁度良いから練習台よ。
もしもの時は、私がしれっと元に戻せばいいわ。
『むむむ……ほころび……むーん……』
ふふふ、頭頂部がそれとなく、冷気を纏い始めたわね。
頑張って、ディア。
ディアはリアちゃんから受け継いだ力で温度を操れる。
得意なのは炎ではなく、氷冷。
私の毛髪に何度か霜が降りた事もあるのよ。
雹は王城でニルティ家次期当主を直撃して以来、誰かに当たった事はないのだけれど。
頭髪って、もし凍ったらどうなるのかしら?
いつかに備えて、ドレッド隊長と地肌に優しい育毛剤を開発中なの。
それにしてもこの空間を作った人は、場所柄、神官だと思うのだけれど、とてもお上手ね。
熟練した職人が縫う縫い目のように、こちら側からは綻びが見えない。
恐らくあちら側も。
魔力を空間に沿わせて感覚で探すしかないわ。
私達は庭園でご飯を食べ終えて、散策していたの。
リンダ嬢だけは何かのインスピレーションを感じたらしく、持参していたノートに何かを書きこんでいた。
いつか見せて欲しいわ。
楽しみね。
遠くに過去の私が見た事のない温室があって、アルマジロ調の、ちょこちょこコミカル走りで駆けて行くディアを追いかけた。
王子もその頃には、ディアの存在に気づいたんじゃないかしら。
時々見つめ合っていたもの。
王子は無表情だけれど、どこか気迫のような気配を感じたわ。
きっと天使にメロメロだったはずよ。
そして先に入って、温室の中で不思議そうな顔をして、私の方に振り返ったディアに続いて、私が足を踏み入れた時よ。
何かの魔法が作動する気配を感じたの。
でも悪意は感じなかったから、一先ずディアを私の頭に転移させて、成り行きに任せた。
そうしたら突然真っ白で何もない空間に捕らわれちゃった。
これからディアに草花を堪能させる予定だったのだけれど、これはこれで脱出ゲームとして楽しめそうね。
『見つけた!
つぎはまりょくをとおして……むーん……』
あら、髪に霜が……温風を当てておきましょう。
『とおった!
おうじとたいいん、いる!
んー、わちゃわちゃしてる?』
『そうなのね。
仲良くしているみたいで何よりよ。
ちゃんと目眩ましも維持できていて、素晴らしいわ』
『えへへー』
頭の固い甲羅の触感を感じながら、撫でてあげれば、なんて可愛らしい反応なの!
ああ、頭頂部のもふもふ触感と相まって、頭から蕩けそう!
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