350.覗き見ツアーが……

「ナックス神官?

ところでこちら、書類になりましてよ。

処理の方を、お願いしてよろしくて?」


 何故か静止画の呪いが発動している、3人の内の1人である神官の前に進む。


 ウエストポーチタイプの鞄に入れてあった、封をされた書類を取り、彼の前に差し出せば、ゆっくりとした動きで受け取ってくれる。


「あ、えっと……ええ、はい。

そうですね、見惚れていま……いえ……確かにロブール公爵家の正式な……」


 どうしてかしら?

呪いが解けたと思ったら、今度は頬を染めて、視線をそれとなく外した?

もの凄く小さな声ね。

何かブツブツ言いながら、封を空けて確認……。


「公女、いつまでも立ち話をしていても仕方ない。

待ち時間ができたのだ」


 今度は呪いの解けた無表情な王子が、ずずいと前に出て来る。

かと思えば、私と神官の間に割って入ってしまった。

目の前に壁がドーンと建つ。


「処理をするナックス神官には、早く処理をしてもらわなければならないし、2日かかる作業を1日かかるような作業なのだから、これから忙しいだろう」

「え、いえ、私は公女ともう少し……」

「俺達はピクニックでもして、時間を過ごそうではないか」


 何か言いかけた神官の言葉を遮り、ピクニックの催促。


 どうでも良いのだけれど、神官のお顔どころか、姿も壁で全く見えないわ。

私に何か言っていないかしら?

王子、ちょっと邪魔ね。


 ……はっ、でも待って、これは……。


「薔薇、ですね」


 いつの間にか、呪いの解けていたリンダ嬢。

彼女の言葉に、私達が互いに意図を汲み合った瞬間だと悟る。


「ええ、何て素晴らしい。

禁断の……」


 もちろん振り返って、共に頷き合うに決まっている。


 ああ、神官と王子がフォーリン……。


「違う」

「……ヒッ」


 すると背後の王子が、すぐ後ろで短く否定。


 するとすると、リンダ嬢が何故か小さく息をのんで、後ろに1歩後退?

どうしたのかしら?


 もう1度後ろを振り返って、視線を上げれば、彼も少し後退していたのね。

いつもの無表情で整ったお顔とご対面。


 今度王子の背中に隠れたのは、神官の方。

彼は私より背も体格もあるから、はみ出しているけれど、顔は全然見えない。


 思わず首を傾げてしまうけれど、そうよね。


 リンダ嬢からすれば、あまりにも整ったお顔で、それも立場が王族ですもの。

目が合った時に、ビックリしても仕方ない。


 特に彼女は、聖獣の祝福を受けたとはいえ、伯爵令嬢。

その上、今は学園も休学中の人見知りさんですもの。


 ハッ、そうだわ。

これはこれで、良くあるノーマルな恋愛小説にありきたりな、王子と伯爵令嬢とのズッキュンな対面シーン……。


「公女、違う。

何かはわからないが、公女が考えているものとは、絶対違う」


 王子はどうしてわかったのかしら。

ノーマル青春恋愛小説を、久々に書きたくなっているって。


「左様ですのね。

それではナックス神官。

教会の奥にある庭園は、まだありまして?」

「……何故、それを……いえ、あるにはあるのですが、あそこは……」

「では、そこでピクニックをするとしよう。

王族の俺がいるのだから、問題はないだろう。

あの庭園の維持費は、王家からの寄付金で賄われているはずでは?」

「それは……まあ、そうですが……」


 どうして王族がいれば、になるのかしら?

神官も何だか不服そうでもあり、戸惑ってもいる?


 あの庭園は私の前々世、ベルジャンヌだった時に造ったの。

お金を出したのも、名分を作ったのも私。


 何故だか全てが異母兄であった、当時の王太子が主体で造った事になってしまったけれど。


 でも当時は申請すれば、いつでも誰にでも開放されていたのよ。


 今は違うという事かしら?

確かに当時、紆余曲折あった末に造ったし、私は稀代の悪女となっているから、制限ができてもおかしくはない。


 先に確認しておけば良かったわね。

邸の方に戻ったら、お兄様にでも聞いてみましょう。


「行こう」


 そう言って、まあまあ、王子が私の手を取った?


 リンダ嬢に目配せして、そのまま私の手を引いている?


 成り行きでそのまま部屋を出て、私の知る庭園の方へと歩いてしまった?


 ……どさくさにガッツリと紛れて、禁欲の園の扉を、隙間からしっかり覗き見ツアーの予定が…………残念ね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る