340.中毒者〜ミハイルside

「ミランダリンダ嬢とはもっと、ムフフなお話も、待ち時間の間に出来そうですから。

紹介したい方もおりますが、何よりミランダリンダ嬢がやりたかった事が、いくらかビジョン化できたと仰いましたの。

もし来年、学園を復帰されるのなら、私達は組が違っても同級生になりますのよ。

それならそれを視野に入れて、一緒に動けると何だか私も楽しめそうでしょう」


 ムフフのあたりと、最後の楽しめそうのあたりで口元がニヨニヨと弛んだな。

兄は見逃さないぞ。

……何を企んでいるのだ、妹よ。


 令嬢は……滅茶苦茶、感激した顔で妹を見るな。

妹は多分、自分の楽しみへの飽くなき探求しか考えていない。


「ならば俺が引率しよう」


 王子が急に出てきたな。

そうか、やっと口を挟めたのが、そんなに嬉しかったのか。

無表情ながらも、どこか目が活き活きしているな、初恋馬鹿。


 しかし話の元を辿れば、ロブール家の離婚手続きだ。

いくら国法とは違う教会での手続きとは言え、そもそも離婚自体、世間体は良くない。

爵位が高位になる程、それが少なくなっていく。


 四大公爵家は特に、代々政略結婚からなるものが多く、離婚は滅多に……何代か遡ってやっとあったか程度だな。

再婚はあるが、配偶者と死別からの、それだ。


 その手続きが、まるで遠足。

学生を離婚手続きへと引率する教師なんぞ、聞いた事がない。


「「何故(え)?」」


 俺と妹は同じ疑問を口にするし、令嬢が戸惑うのも無理はない。


「不登校から休学した生徒の再帰がかかっているのだろう。

全学年主任として、見届けるのは当然のこと」


 もの凄いこじつけを、もの凄いドヤ顔で宣言したな。


 それとなくを装って、ほの暗い感じの朱色で俺の目をガン見するな。

同意しろ、と言外にヤバい目で語るな。


 とはいえ、実は迷う。


 王子が職権乱用しているのは間違いない。

その上ロブール家の醜聞に、第1王子という王族が関わる事で、どんな二次被害が起こるかわからない。


 だが夫婦関係が破綻していたのは周知の事実だったりもする。

驚きも少ないだろう。


 その上あの女が社交界の前線で活躍する事も、これまでに無かった。

これはあの女の性格というよりも、夫である父のせいだとは思う。


 夫の無関心と魔法馬鹿から、社交界が重きを置くような夜会に、参加できなかったのが大きい。

そういう場では、大抵の淑女が夫や婚約者を連れてくるし、個人で爵位を持っていない者の場合、それが条件となる事も多いからだ。


 あの女は、あくまで夫人。

爵位はない。


 つまりあの女の他家への影響力はその程度。

ロブール家の力が揺らぐものでもない。


 ならば何故か教会から目をつけられた、妹の身の安全を1番に優先すべきではないだろうか。


 そういう意味では、生活魔法程度しか使えない妹だけで行くよりも、令嬢や王子がいた方が良い気はする。

つまりは、護衛だ。

教会に入る際、表立って護衛をつけると、角が立つ。


 令嬢も昨日の状況を見る限り、戦えないという事はない。

聖獣の加護を持ち、気配を消す事には長けていると、元婚約者であるヘインズから聞いた事もある。

それに妹とヤバい同士同盟が結ばれているようだから、何かあれば守ってくれそうだ。


 王子も、初恋馬鹿で妹が絡むと殺人鬼のような、ほの暗い目をする事はあるが、攻守どちらも得意で、本来は頭もきれる。

教会が何かしら企んでいるのは間違いないが、その理由を聞き出す事も、できるかもしれない。

間違いなく役に立つ。


「左様ですわね。

それでは週末、皆で教会へピクニックに行きましょう。

お弁当は私が作りますわ」


 妹よ、目的が変わっている。

手続き、忘れてないか?

だが最後の言葉に、俺の食欲が反応してしまう。


「公女の手料理!

また食べられるんですね!

楽しみです!」

「そうか、それは楽しみだ」


 類友令嬢はいつの間に妹の料理を……ああ、お泊りと言っていたな。


 今度こそ普通に嬉しそうな表情をした王子もそうだが、妹の手料理中毒者が増えていく。


「私のは……」


 俺も中毒者だ。


「ふふふ、食材はお兄様も一緒に獲ったという兎熊と音波狼がありますもの。

そのつもりでしてよ」


 最初から妹の中で頭数に入っていたようで、何よりだ。

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