339.落ち着かない〜ミハイルside
「教会からは、私が手続きをするなら、学生だという事に加えて、上位神官の覚えもあるので、一日で済ませられるとの事でしたわ。
ナックス神官は、覚えてらして?」
「ああ、孤児院で一緒にいた神官だったか」
そう、妹の虐待容疑で保護するとか言って、わざわざ妹が同級生達と孤児院にいるのを見計らい、押しかけて来た神官だ。
数日後には実際に会って、何故か一緒に調理して、ご飯を食べる事になったが。
あの時は孤児達の目もあったのか、それらしい話はしていない。
「左様ですわ。
お父様は早急に、手続きを済ませたいようですの」
「それなら本人が行けば……」
「それが急な魔獣の多発で、派遣する魔法師の選定やらをするみたいですの」
「本心は違いそうだが……」
絶対、面倒臭いのが勝っている気がしてならない。
しかし父上の性格上、国法の処理だけでもういいかと、途中で匙を投げかねない。
何なら領地はもう要らないとか言って、匙どころか領地ごと投げる。
実際、領地経営より魔法を優先したいがばかりに、俺への領主教育は早かった。
何なら筆頭秘書に実際の収支に関する資料を持たせてよこしたのは、俺が10才過ぎたすぐの頃だったくらい、軽く投げて来た。
という事は、父上が面倒を投げたものを放置しても、結局俺にしわ寄せがくる!
何て理不尽なシステムなんだ?!
「あー、しかしあの神官はお前を教会へ、引き留めるかもしれない」
システムを思うと、言葉も弱々しくなるものの、やはり妹の身の安全が、優先事項だ。
恐らく教会で妹を迎えるのは、あの神官だと思う。
ん?
黙って成り行きを見守っている王子が、それとなく眉を顰めた?
「ああ、ナックス神官の仰ってらした事なら、特に気にされなくてよろしいのではないかしら。
そもそも教会での禁欲生活に、私が耐えられると思いまして?
私なら絶対に堪えられない自信しか、ありませんもの」
「いや、そこは少しくらいなら耐えてもいいと思うが……」
妹の言葉は確かにその通りだと思うが、妹ももう少し堪える経験は、むしろ必要な気がしなくはない。
「それでは代わりにミランダリンダ嬢に……」
「そんな?!」
「大丈夫でしてよ。
貴女には、素敵なお忍びの才能がありますもの。
禁欲の聖地も何のその、ですわ」
「……そ、そう……禁欲、ですものね」
「ええ」
待て待て待て待て。
何かヤバい連盟が出来上がっている?!
確か引きこもり令嬢じゃなかったのか?!
記憶の中では長い前髪で目を隠して、うつむきがちな印象だぞ?!
何でそんなにギラギラさせているんだ?!
最後に会ってから、まだ1日しか経っていないのに、大分性格が変わっている?!
そもそも女子2人が見つめ合って、何で禁欲のワードに頬赤らめて、両手を握り合って、頷き合っているんだ?!
王子は令嬢の斜め後ろから、本人を睨むな。
多分、妹の同類なだけだ。
ビビッて泣かれたらどうする?!
「まさか……令嬢も連れて行く気なんじゃ……」
王子が気にはなりつつ、妹の同行者を尋ねる。
「何だか毎日退屈して過ごされていたようですから、お話し相手として、お散歩がてら」
「いや、しかし両親の離婚手続きだぞ?」
「私の離婚手続きではありませんから、ただの事務手続きでしかありませんわ。
元々家庭内別居どころか、夫婦としても、家族としても、一緒に過ごすのは月に1度。それも1時間程度でしてよ?
離婚前も、離婚後も、状況も気持ちも、大して変わりませんわ」
すでに妹の両親認定から除外されているからか、全く何の感慨もないらしい。
王子は無表情で、それとなくそわそわするな。
絶対ついていこうと考えているに違いないやつだろう。
「それより昨夜はお泊りもされましたのよ。
あ、勝手に邸の客室を使いましたの」
「……そうか。
それは別に構わない……」
ちょっと待て、王子!
羨望どころか、殺意すら感じる無表情で令嬢を睨むでもなくジッと見つめるな。
落ち着かない。
「オネエ様も一緒に」
「ああ、あの背の高い。
オネエ、様……いや、お姉様の方か」
一瞬、オネエな王家の影が頭をかすめるも、あの時見た、鞭使いが板につく保護者の1人を思い出して、影は忘れる。
「パジャマパーティーで一夜過ごすのも、楽しかったのですわ」
「……あー、そうか」
何で王子は、無表情を愕然としたものに変えた?!
そっちが気になって、返事が遅れてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます