313.ヤバい気質〜ミハイルside

「夫人は見つかったのか?」

「……」


 放課後、生徒会室に入って来たレジルス第1王子に開口1番、そう問われ、思わず閉口する。


 父上からの指示もあり、ヘインズと話した翌朝早くに、学園を休んであの女がいる郊外の邸に向かった。


 単身馬で駆けて行く方が早かったが、あの女を連れ戻す為に、念の為、こちらも馬車を使う事にした。

癇癪を起こしたり、王都の邸に連れ戻されるのを拒否して、乗って行っただろう馬車を壊している可能性も考えての事だ。


「……学園には詳しく話していなかったはず。

何故そのように判断されたのか、伺っても?」

「一昨日、公女とヘインズと共に、少々私的寄りの課外授業を行ってきた」


 おい、私的寄りって何だ。

思わずつっこみそうになるのを、こらえる。


「公女は当初、そなたを誘うつもりだったらしいが、仕事で早朝からいなかったと言っていた。

に、そなたが仕事を入れるとは到底思えん。

ロブール家の領地で、そなたが対応せねばならない程の天災でも起きたのなら、俺の耳に入らないはずもない」

「それで実際のところは?」


 そんな事で、あの女が原因だとすぐに答えにたどり着くはずがない。


「公女はヘインズとこの週末、アトリエとやらに向かう約束を取りつけていた。

全学年主任なのに蚊帳の外で、話して貰えなかった。

男女の交流が、不純異性交遊に発展したら、どうしてくれる」


 カッと血走らせた目を見開いて、黒い空気を纏うの止めろ。


「嫉妬を暴走させるな。

ついでに職権も乱用するな。

つまり、探らせたと?」

「聞いてすぐ、アトリエの場所を探した。

俺の権限で使える王家の影を使ってな。

そうしたら偶然にも、ある貴族の別荘が損壊した話を聞きつけた。

ついでに調べたら、行き着いた」

「どんな偶然を誘発させる、嫉妬心なんだ」


 思わず深いため息を吐く。


 普通ならそんな偶然あるか、ロブール公爵家を常から見張らせていたんだろう、と言いたくなる案件だ。


 しかし恐らくこの男は、真実を話している。


 ヤバい気質を前に、妹の身を案じるべきなんだろうが、ヘインズとアトリエとやらにしけこむ妹情報にも気を削がれて、ちょっと兄心が混乱する。

俺の方がどうしてくれると言いたい。


 あの辺りは貴族の別荘が多く立ち並ぶ場所だ。

昔と違って幾らか寂れてしまっているが、改めて見ると、それなりに立派な邸が隣接している。

そんな所にアトリエとやらを構えているという事か?

兄は本当に、どうしたらいいんだろうか……。


 それは、まあ後で絶対妹に問い質すとして、あんな事があれば、そりゃ噂になっても致し方ないよな、と半分現実逃避しつつ、自分を慰める。


 あの日、日が少し高くなってから現れた俺を出迎えた、管理を任せてある初老の使用人。

彼が見せた、安堵の顔に、いたたまれなさと申し訳なさで、身につまされる思いがした。


 もう何年も邸を使用していなくて、数名の使用人しかいないにも関わらず、あの癇癪女の相手を良くやってくれたと労った。


 礼儀正しく使用人に、あの女を呼びに行かせるはずもなく、すぐに滞在しているという部屋へと案内させる。


 それでも最低限の礼儀は守り、ノックして入ろうとしたのがいけなかったのかもしれない。


 __ドン!


 何かが外からぶつかって破壊するような、大きな音が扉越しに聞こえてきた。

慌てて扉を開ければ、部屋にあるはずの壁がなくなり、向こう側の見晴らしが随分と良くなっている。


 残骸は、内に向かって飛んでいた。


 すぐ様周囲を見回したが、あの女はいない。

慌てふためく案内してくれた使用人は、その場で待機を命じ、崩れた壁から身を乗り出した。


 一体、何をしでかしてくれているんだ?!


 こちらを睨みつけながら、一目散に走り去る、着飾った女性の後ろ姿を視界に捕らえて、犯人はあの女だと瞬時に悟る。


 あの女も大概、ヤバい気質じゃないか?


 どうやったのかはわからないが、魔力は封じられている。

魔法具を使って、タイミングを見計らい、外から壁を攻撃したに違いない。

この時は、そう判断した。


 すぐに魔法で身体強化し、壊れた壁から飛び降りて追いかけた。

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