311.アトリエにて
「R18……変態、雇用……主……」
ワンコ君がぶつくさ言いながら、息絶えた……かのようにして、壁際の作業机に向かってダウン。
コロンと手から筆が転がる。
「ふふふ、ああ……素敵。
これで……これでやっとラブ&ピースなおくるみが……」
感激のあまり、できたばかりの白い布を抱きしめる。
布にはつい今しがた描きあげられたばかりの絵。
それを魔法でサッと乾燥させる。
私の服にインクが着くのは構わない。
けれど絵が滲むのは、断固拒否。
ついでに机を汚した筆は、魔法で机ごと綺麗にする。
「あら、やっぱりいたのね」
「まあ、ガルフィさんにユストさん!」
「し、師匠達……」
抱きしめる布に、全集中していたせいか、ドアのノック音を聞き逃したみたい。
背後からの声に振り向けば、そこには保護者な2人が。
週末になると、時々こうしてアトリエに様子を見に来てくれているの。
でもワンコ君がイラスト作業に慣れてきている今、どちらかというと、ここで月影としての打ち合わせする事が、多いかしら?
今は小説も一段落して、挿し絵待ちなの。
今日みたいに急ぎの用が出来なければ、呼ばれない限り、私が来る事もないのだけれど。
そうそう、出版社とユストさんの商会は、また別物。
販売ルートも業種も違うから、当然ね。
ただウチワとメガホンの販売に、ワンコ君のイラストをつけて販促していて、この2人は業務提携的な関係とも言える。
ワンコ君の腕前も、人物描写はひと月足らずで求める下限レベルにはなった。
今はオネエ様なガルフィさんにアシストしてもらいつつ、背景や服装の画力アップの課題に取り組んでもらっている。
余談だけれど、小説の執筆作業でどうしてもR18禁方向にひた走りたい時や、そっち方向のイラストを求める時は、私もここで作業と発注をかけるわ。
ほら、お家だとそっち方向への理解がまだ低い、モフモフ様達の目があるじゃない。
それにしても、今日も色っぽいオネエ様は、振り返った私達を見た途端、怪訝そうなお顔ね?
ゆるい癖と艶のあるアッシュブラウンの、長くなった前髪がかかるダークグレーの瞳。
そんな魅惑の瞳が何故かしら?
コイツら何やった、と言外に告げているかのよう。
それよりワンコ君もどうしてか、2人に縋るような眼差しを送り始めたわ。
解せない。
「で、何でそっちの坊主は、精魂燃え尽きたような顔で救いを求める目をしてて、ラビの方は不吉な顔で頬を赤らめて、ギンギンな目をしてんだよ。
おい、坊主。
うちの子に、何かされてねえだろうなあ?」
赤茶の短髪で、見た目は輩属性的なガタイの本人いわく、まだまだ男盛りらしいガタイの良いオジサンが、ワンコ君ににじり寄る。
焦げ茶色の左眼あたりにある、斜め四本線の傷痕が、余計に圧を放っているかのよう。
「何で俺が何かされてんのわかってて、こっちを責めるんだよ?!」
ワンコ君も怯んでいるけれど、大丈夫。
ユストさんは大の子供好きだし、今では売れる商品を提供するイラストレーター様だもの。
疲弊したお顔だから、心配してくれているに決まっているわ。
「やあね、ラビを止められると思う?
アンタをお仕置き、じゃない、邪な性根をラビの言う、純粋ドM気質に鍛える方が楽だからに決まってるじゃない。
大丈夫、優しめなハードにしておくから」
「言い直した意味が感じられねえ!
優しめなハードって、矛盾してんだろう?!」
「大丈夫だ、大事な商品、じゃなくカモだ。
ガルフィにも手加減させる」
「だから言い直した意味!
ひっ!」
あら、ワンコ君たら。
席を立ったかと思えば、オネエ様に壁側へ追い詰められてからの、壁ドン。
スカートのスリットから覗く、よく引き締まった魅惑の御御足が、ワンコ君の足の間にねじこまれちゃった。
2人共、スタイルが良いの。
幅は違うけれど、背の高さも足の長さも、同じくらいだし、それはそれで何かが滾りそう。
「まあ、仲良しね。
それじゃあ、私は行くわ〜」
「お、おい!
この状態で放置とか、鬼か?!
…………ひ、ひぃぃぃぃぃ!」
保護者2人は軽く目配せして挨拶を交わしてくれたから、ワンコ君は無視。
早くこれを活用しなくっちゃ。
外に出れば、日もすっかり高くなっているわ。
早朝から活動していて正解ね!
ディアには、火山で手に入れた戦利品を守る名目でお留守番してもらっているし、早く帰って……。
「ロ、ロブール公女!」
朝からずっと薄い気配でついてきて、茂みに隠れて待機していたけれど、もう良いのかしら?
※※後書き※※
いつもご覧いただきありがとうございます。
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数日お休みしておりましたが、更新再開です。
プロットを練り直すのに、投稿していた話を改めて見直したら、矛盾点を見つけてしまい、前章含めていくらか修正しています。
ワンコ君のイラストレーターの活動履歴を手直しした程度で、大きく変わってはいません。
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