307.過激な加護〜ダリオside
「久しぶりだが、相変わらずのようだな」
「……は、はい」
自宅へと呼び出したのは、ミランダリンダ=ファルタン伯爵令嬢。
年は元愚息の1つ上。
確か20才になったばかりではなかっただろうか?
終始うつむきがちな彼女は、日に当たると青みのでる焦茶の長い髪をしている。
前髪も長めで、恐らくそれは、元愚息と同じ空色の瞳と顔を隠す為だろう。
所在なさげにこちらの様子を窺っているが、とはいえ直接見ようとはしない。
目元には隈が見て取れた。
彼女は9才で聖獣ドラゴレナの加護を受けた。
この聖獣はかの王女が没した後に、代替わりで生まれた聖獣だとされているが、姿やその性質は正確に観測されていない。
ただアッシェ家の親類縁者に加護を与えるのは、この聖獣だけだった。
皆が皆、元は傲慢で攻撃的な性格。
そして加護を受けた後は、内向的になり、引きこもりがちになった後、加護が消え、次なる者を加護する。
まるで性格を矯正されているかのようで、それがアッシェ家の罪に当てらったようにすら感じられるのは、私だけだろうか。
この令嬢もそうだ。
今はまだ加護は消えていないようだが、徐々に内向的になり、王立学園の3年生になった頃より、とうとう休学扱いとなった。
このまま何年かすれば、学園の規定として、退学扱いとなる。
加護を受けた者の体裁を保つ為にも、卒業はしてもらいたいというのが、国としての方針だ。
加護を授かった者には、望めば国から何かしらの援助が受けられる。
代わりに聖獣が許す範囲で、国に何かしらの貢献を促しはする。
彼女とその生家は、既にそれを受け取っている以上、義務は果たせと本家であるアッシェ家からも、通達はしていた。
金銭的な援助の他、既に解消はされたものの、10才で元愚息の婚約者となったのは、彼女たっての望みだった。
元愚息は……まあかなり嫌がっていたが。
何故なら1つ年上の彼女は、その年の甘やかされた貴族令嬢らしい、年齢なりの幼い傲慢さが、やはりこれまでの加護を受けた者と同じく見受けられたからだ。
特に聖獣の加護が与えられて数年は、内向的どころか、その攻撃的かつ傲慢な性格に、拍車をかけてもいた。
父親としてもアッシェ家の当主としても、正直この性格のままなら、アッシェを名乗らせる事はできないと判断する程に。
もちろんそれは彼女の父親であるファルタン伯爵を通し、通達もした。
そんな令嬢と元愚息が合うはずもなく、当時は会えばよく互いの気の強さから口論となっていた。
そんなある日、突如として変わった。
きっかけはわからない。
入学も危ぶまれる程だったが、そこは両親から強く命じられたのだろう。
休みがちではあったが、2年までは昇級できた。
それはひとえに、元愚息の努力があっての事でもある。
元愚息が入学前は、学園に可能な限り送り迎えをしていたし、入学後も学園内で何かと声をかけるようにしていた。
この頃には令嬢の性格も丸くなっていたし、元愚息は婚約者というより、落ちこむ喧嘩友達を励ます感覚になれた事も良かったようだ。
だが今思えば、ロブール公爵家の元養女と元愚息がある茶会で出会って暫くしてからか。
婚約者の間柄だったこの2人の関係が壊れていき、彼女の方が拒絶して、婚約解消に至ったのは。
政略結婚という制度を前に、元愚息がかの元養女への恋心を諦めた事を気づかせていたのも、大きいかもしれない。
元より聖獣の加護を受けたからこそ、彼女の一存が大きく働いて叶った婚約だ。
女心としては年々、心苦しくもなっていったのかもしれない。
「聞きたい事があって呼んだ」
「……はい……」
蚊の鳴くような声だ。
会うのは数年ぶりか。
こうして暗く澱んだ空気を纏う様子を改めて見ると、聖獣ドラゴレナの加護は真実、過激なのだろう。
「かの聖獣の加護について、改めて知りたい。
だが直接的には言えぬ事もあるだろう。
はいか、いいえで構わない」
「……はい……」
ベルジャンヌ王女が亡くなってからは、かの公女しか聖獣との契約を結んだ者はいない。
だが陛下からは、それに関して一切の他言を禁じられた。
理由は聞かされていないが、学園の男子寮で起きた魔法呪の一件を見ても、団長室でした公女との会話も含めて、あまり追求しない方が良いと直感した。
特にあの元愚息のノートと、愛読している小説に最近描かれるようになった挿し絵。
つつけば自分自身にも、何かしら返ってきそうな気がしてならない。
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