298.馬車と教会〜ヘインズside
『そうなれば私は臣籍降下させられ、駒として使い捨てられる。
ましてやそんな姑息な者が王になどなるべきではないだろう。
同年代で、婚約者のいない公女は彼女しかいない。
まして父親は、あの魔術師団長だ。
聖獣の加護付きの女性で同じく未婚、婚約者のいないミランダリンダ=ファルタン伯爵令嬢も考えたが、彼女も休学中だ。
何よりあの公女と比べれば、能力が上といってもたかがしれているのだ。
公女という血筋という点を覆す程の立場や能力ではないから、やはり使えない。
落とされた私の地位を元に戻し、せめて兄に屈する事が無いようにするには、やはりロブール公爵令嬢という婚約者が必要となる。
魔力の低い無才無能な事は、私が補う。
わかって欲しい』
わかるわけねえだろうが!!!!
そもそも公女は有才有能な天才魔法師だ!
ちょっと……いや、まあまあ、か?
とにかく破廉恥な趣味に才能を極振りした残念公女なだけだ!
返事を断るだけに留めてその場を去ったからか、とにかく思い出すとイライラが治まらねえ!
さすがに今の心境でイラストは描けねえからと、馬を借りてここまで駆けてきて、現在に至る。
【ラビリンカップパフェ】のプリンを再び勢い良く、ガガッと口に頬張る。
ついでにミントの代わりに乗ってた葉っぱも口にする。
「塩味?
初めて見るが、不思議な食感だな」
思わず呟いた。
甘い物としょっぱい物との味がこんな風に合うとは。
それにプチプチした食感も面白い。
量があるから、やっぱり甘さが際立つデザートに、良いアクセントを与えている。
ああ……美味い。
何でも元は果物屋の店番も含め、複数の店で手伝いをしていたバイトが、賄いとして考案したプリンがこのパフェの起源だったらしい。
良い働きしたな、そのバイト。
この葉っぱは誰がもたらしたんだろう?
とか思いつつ、イライラの記憶を他所へ逸らしてる間に、もう無くなっちまった。
お1人様1パフェまでと決まっているし、客が並んでいる時はパフェ到着から30分以内の立ち去りをお願いされているから、長居もできねえ。
しかし良い気分転換にはなったな。
「あの葉っぱ、絶妙だった。
御馳走様」
「アイスプラントって言うんですよ!
ありがとうございました!
お気をつけて!」
どこかで見た事があるバイトがと思いつつ、彼女に会計をしてもらい、店を出た。
そこでふと思い出す。
俺が3年だった時に、合同討伐訓練で同じグループになった子だ。
という事は、公女と同じDクラスの同級生だ。
記憶の引っかかりが解け、甘く美味いデザートの余韻も相まって、苛ついた気分も浮上した。
天気も良いし、このまま少し歩くかと、大きな通りから少し中に入って歩く。
細道を幾つか抜ければ、確か近くに教会の本部があったよな。
昔は王都にもあったと聞く教会はそれなりの規模の信者を抱えている。
教会の一部は一般開放しているから、辻馬車の停留所も近くにあるはずだ。
乗ってきた馬はそれで取りに行こう。
そろそろ秋も終わる頃だが、今日は散歩日和とばかりの陽気だ。
暫く歩き、通り沿いに教会の建物が見え始めた。
その時だ。
1台の馬車が真横を通り過ぎる。
「ん?」
反応したのは、その馬車に見覚えがあったから。
「夫人専用とか言ってた馬車じゃなかったか?」
自然と眉根が寄る。
ロブール公爵家も含め、四大公爵家は昔から教会と距離を置いていた。
理由はわからないが、特に国教を定めてもいない国だし、そんなものだと思っている。
元ロブール公女だったシエナは、時折義母であったロブール夫人と共に茶会に出ていた。
ちなみに嫡子であり、シエナの義姉でもあった方の公女とは、出席したのを見た事がない。
茶会には数えるくらいしか参加してこなかった俺だが、シエナが参加するからと何度かエスコート役を自主的に引き受けた事がある。
今では黒歴史だ。
馬車にはその時々の流行りや、家々での特徴が幾らか反映した形を取る。
あの時見た曲線のある馬車の外観や色と酷似しているし、良く見れば家紋もついているな。
やはりロブール夫人の馬車で間違いない。
にしても、あの夫人が教会?
あまりにも似合わない組み合わせだ。
何となく教会の方に向かってみる。
次第に歩調を速め、走り出した。
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