299.妹の生態〜ミハイルside

『次期当主として、邸の管理者として、貴女がロブール公爵家に害悪しかもたらさないと判断した。

二度とここへ来る事も、私とラビアンジェの母と名乗る事も許さない。

これまでロブール公爵家のに対する暴挙は目に余る。

それに加え、邸の管理監督不行き届きも甚だしいほど残念なものだった。

全ての判断は、現当主より追って知らせがあるだろうが、今は早々に自分の部屋へ戻れ』


 冷ややかに告げ、初めて殺気をあの女に向けて放てば、顔を真っ青にして絶句し、二の句を告げられずに口をパクパクと動かしていた。

殺気を弛めてやれば、ようやくよろけながらも去って行く。


「……ふぅ」


 思い出せば、意図せずため息が漏れる。

サラサラとペンを滑らせ、書類をまとめつつ、妹の離れ付近で起きた昨日の出来事に、頭が痛くなってきた。


 結局あの後、持ち帰っていた生徒会役員の仕事までは、手が回らない事態となった、濃い週末。


 ……ロープを下半身に巻きつけて吹っ飛ぶ妹に、醜悪さを放ち、母親とも思えなくなったあの女。

……濃過ぎないか?


 妹が気になり、あの女を追いかけるのは後に回し、どこか可愛らしさを感じる門扉を開ける。

中に入り、まずはほっとした。


 長らく妹にキツく当たってきたのは、俺も同じだ。

妹の母親でもあるあの女と話したのかまでは、正直わからない。


 だが俺がここに来た時点で、あれだけ喚き散らしていたんだ。

小屋の中にいても、あの声は聞こえていたに違いない。


 傷ついた妹が、俺を拒絶して許可を取り消す可能性に、ゾッとした。

 

 そうして門扉はきちんと施錠し、小屋のドアをノック。

暫く待って、もう1度ノック。

しかし出てこない。


 今日は1日小屋にいると聞いていたが、いなかったのか?

それならそれで良かったと思いつつ、ジョンからの手土産を置いておこうと、ドアノブをひねる。


 妹から届け物があれば勝手に開け、すぐ目の前に設置している棚に置いておくよう言われている。

妹は鍵をよくかけ忘れていた。

だから魔法認証でノブに触れれば、自動で解錠と施錠ができる仕組みにしてある。


 ちなみにこれは俺と自分しか許可していないらしい。

兄としては、ちょっと嬉しかった。


 外にポストをと提案して設置していたが、妹は一々確認しない性格だった。

こちらが指摘しないと、平気で数週間は確認しない。

結局そこに入れられた、差し入れの食材が何度か駄目になった。


 以来、差し入れ用の棚を中に設置し、そこの1番上に置くシステムに変わった。

公女がこれで良いのかと度々悩むのは秘密だ。


 念の為もう1度ノックしてから、ガチャリと開いて紙袋を置いた。


『あらあら、お兄様?』


 そのまますぐにドアを閉めようとすると、妹の声が。


『いたのか。

何度かドアをノックしたんだが……』


 奥から出てきた妹の手には、どこかで見た覚えのある耳栓が握られていた。


『少し執筆活動をしておりましたの』

『…………そうか』


 それ、絶対どこかの破廉恥鳥に捧げる用の、Rなんたらの執筆だな?!


 こんな兄でも、少しずつ妹の生態がわかってきている。

世に出せる方の、いかがわしいレベル小説なら、淑女らしい微笑みを浮かべつつも、口元が弛んでいる程度。


 しかし残念亜空間収納に、鳥を称えつつ奉納している、破廉恥レベル小説の時は、頬を薄っすら赤らめ、照れ笑いしている事に最近気づいた。

どこぞの第1王子も含めて、世の男共には見せられない、年相応の可愛らしいやつだが、このタイミングなのはどうなんだ。

加えて集中力アップの為と、耳栓も使う事が多い。


 とはいえ、今回はそのお陰で実の母親の醜悪さに触れなかったのだろう。

良かったとは思うが、それもどうなんだ。


 ジョンからの手土産を伝えて、あの女がちゃんと部屋に戻ったか確認すれば、どこかへ出ていた。

それも行き先を告げておらず、今朝方になって、郊外にあるロブール家名義の邸の管理者を介し、連絡がきた。


 世話をする使用人をもっと寄越せと暴れたらしい。

舌打ちしそうになったのは、言うまでもない。


 そうして早朝からこうして生徒会役員室で仕事をしていれば……。


「ミハイル!」


 バン、とどこぞの元義妹を彷彿とさせるような音と共に、部屋に見慣れた男が入って来た。

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