291.奇怪な呪文〜ルシアナside
「早く芽を出せアイスちゃん。
出さぬとプラントちょん切るわよ〜」
__シャワワ~。
「早く芽を出せアイスちゃん。
出さぬとプラントちょん切るわよ〜」
__シャワワ~。
奇怪な呪文と共に、ジョウロで小屋の裏庭にあたるだろう畑で水撒きをするのは、ラビアンジェ=ロブール。
忌々しさにギリリと歯を食いしばる。
邸の事は、女主人である私の権限。
なのにこの出来損ないは、いつの間にか息子に取り入り、私からその権限を奪わせた。
それに……。
改めて見れば、離れと呼ぶボロ小屋を大修繕させているなんて!
その上、なんなのよ、この柵は?!
ボロ小屋ごと柵でぐるりと囲んでいるなんて!
どこかから入れないかと一周しているうちに、柵越しにこの出来損ないを見つけた。
怒りのままに、地面に落ちていた小石を手にし、呑気に鼻歌まで歌う出来損ないへと投げつける。
__ガシャン!
けれど小石は、残念な事にあの出来損ないに当たる事なく、柵に当たって跳ね返った。
「ラビアンジェ!」
憎しみをこめて、忌々しい男がつけた、忌々しい出来損ないの名を叫ぶ。
「早く芽を出せアイスちゃん。
出さぬとプラントちょん切るわよ〜」
__シャワワ~。
血の繋がった母親である私に、全く反応しないあの態度。
頭にカッ、と血が上る。
「ラビアンジェ!!」
更に声を張り上げる。
魔法さえ使えれば、こんな柵、すぐにでも壊してやるのに!!
今度は、手の平にギリギリ収まる程度の石を手にして、投げつける。
今度こそ柵の間を通った!
そう思ったのに……。
__パキィン……。
防御魔法ですって?!
石は防御魔法によって、高い音を出して砕けてしまった。
「早く塩葉っぱ食べたいわね。
水撒きも終わったし、今日は皆いないから……むふふふ」
「ラビアンジェ!!
返事をなさい!
この出来損ない!」
ガシャンと音を立てて柵を掴む。
その瞬間……。
__バチッ。
「あぅっ?!」
けれど魔法で特定の人間しか入れない仕様にしているのか、音を立てて弾かれてしまう。
手に軽い痺れが走り、グラグラと怒りに目が血走るのを感じる。
ふと、そこで初めて目が合った。
「あらあら、赤いお顔。
動物園のお猿さんのようでしてよ?
お久しぶりですわね、お母様」
微笑みだけは淑女然としたその顔が、更に小憎たらしい!
柵の中に入っているのはお前の方でしょう!
「お前のせいで魔法を使えなくされたのよ!
なのに兄に取り入って、私から邸の権限を奪ってくれたばかりか、可愛いシエナまで、よくも追い出してくれたわね!
お前など、産まなければ良かった!
私が私のお母様と疎遠になったのも、全部お前のせいよ!」
一息に話せば、息が上がる。
最近、ずっと部屋に引きこもっていたからかしら。
「まあまあ、体力が落ちてらっしゃるのかしら?
たまには外に出て、お散歩でもしながらお日様を浴びないといけませんわ。
ビタミンDが体内生成できずに、骨粗鬆症になりますの。
今日はお散歩日和ですから、将来の寝たきり予防の為にも、どうぞお散歩をお続けになって下さいな」
出来損ないは、言うだけ言うと、そのまま小屋の方へと向かう。
「お前ごときが、ふざけないで!
びたみんDって何よ?!
いいから出てきなさい!」
「嫌でしてよ。
これからR18禁書き書きモードに突入するんですもの、むふふふ」
「意味がわからない事を言って逃げるつもり!
何なの、その含んだ笑いは!
何か企んでないで、早くそこから出て……ちょっと?!
母親を無視するなんて何様よ?!」
__パタン。
出来損ないが私の言葉を歯牙にもかけず、小屋の方へ向かい、やがて扉が閉まる音がした。
「ラビアンジェー!!!!」
喉が張り裂けんばかりに叫ぶも、もはや小屋から出てくる気配すらない。
近くの石を手当たり次第、小屋に向かって投げるも、やはり柵に跳ね返される。
「出来損ないが、私を馬鹿にして!
許せない!
許さない!」
散々に罵詈雑言を捲し立て続けていれば……。
「貴女は何をなさっているんですか!!」
低音の、よく通る声が背後からなげつけられ、思わずビクッとして振り返る。
そこには鬼気迫る顔で私を睨みつける、私の愛しい息子が立っていた。
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