247.懐かしい子供の日の想い出と申し子
「それは難しい」
お父様の言葉に呼応するかのようにローブを目深に被った女性の足元に魔法陣が出現する。
「あら、いつの間に?」
あれは恐らく捕縛用。
それもかなり強力な類で、アレが本体なら確実に捕まえられていたでしょうね。
全く慌てていないところに私の予想が正しかったと確信する。
『ラビ……』
『わかっているわ。
アレは多分……けれどどうして……』
頭の上にこっそり鎮座し続けているリアちゃんが言いたい事はわかっているわ。
姿形は違っていても、私達はアレが何か知っている。
アレが私を見た時から私の片腕の中で身を固くしているアルマジロちゃんは無意識にアレを嫌悪しているみたい。
生まれてすぐに捨てた親を恋しがって鳴き声を上げていたのに、今はただ声を押し殺して震えているだけ。
この子の時間も残りわずかなのに、気の毒ね。
そう思ってそっと両腕に抱え直し、ワンコ君から移した紋を通して感じている痛みを幾らか軽減しつつ、死への恐怖に少しでも寄り添えるよう、頭を撫でれば震えは治まったわ。
「元養女の影を使った。
お前の足元に重なった時に仕掛けておいた」
そうね。
シエナの影にあらかじめ捕縛の
相手にも気づかせずに魔法陣を圧縮して内包させた種が纏う魔力を隠して潜ませるのって、なかなかの難易度なのよ。
「ふーん……どこまでも良いように使うのね」
「既にロブール家の庇護からは自ら進んで外れた者だ。
望むと望まずとも。
だがあのままなら楽に死ねたものを、お前が体に戻したのだろう?
魔法呪を作り出したのもお前か?」
「そうよ。
でも結局あなたの娘が非常識な方法で止めたわ」
淡々と語るアレは魔法陣から放出される光の粒子で足元を固められていく。
お父様をチラリと見れば、さっきまでは羽根か魔法具を見て好奇心に私と同じ藍色の瞳を輝かせていたのに、軽く眉をひそめているわ。
手応えがないのに気づいているんじゃないかしら。
付き合いが長いからか、あの王妃とよく似た紫色の瞳をした騎士団長もお父様の様子に腰の剣の柄に手をかけていた。
「そうか。
何故その者に近づいた?」
私への関心から逸らすように老婆となってあそこで転がっているシエナを顎で差す。
「見つけたのはある意味偶然で必然。
元々魔力も含めて素質のある者がいないか王家や四公の者達を時々観察していたの。
そしたら君の形だけの奥さんが目に止まったわ。
彼女の憎しみも心地良かったけれど、その根源となった者にも興味を持ったの。
だから見に行ったらシエナがいた。
シエナは他人への妬みが酷い子で、物心つく頃には既に現状の不満でいつも感情を爆発させていたわ。
それがとても心地良かったのよ。
申し子としての素養がとてもあったから、素養を育てる事にしたの」
『申し子、だって……』
リアちゃんが呟く。
声には幾らかの怒りを感じるわ。
「でもまさかそんな出来損ないに邪魔し続けられるだなんてね」
目元はローブで隠れているのに、真っ直ぐに私を見たのはわかっ……まあまあ?
お父様がそれとなく私の前に立ったわ。
「どういう意味か教えろ」
騎士団長がお父様の隣に立つ。
2人とも背が高いから、私の目の前には大きな壁ができてしまったわ。
でも……。
『片手にハリセン持ってるところがしまらないね』
『リアちゃん、それは違うわ。
これからドッツキ祭りが開催される手に汗握るシーンよ』
ふふふ、ヤンチャな孫達と子供の日に新聞紙で兜とハリセンを作って祭りを開催していた事もあるのよ。
皆大ハッスルしてお腹が空いたのでしょうね。
その後の柏餅やチマキが驚く速さで小さなお口に吸引されていったの。
「顔すら知らずに羨ましいと妬み続けた義姉の無才無能っぷりが想像以上に酷過ぎたわ」
何だかとっても残念な何かを見る視線を複数から向けられている気がするわ。
目の前の騎士団長からも感じるのだけれど、彼の視線は前を向いているのに何の不思議現象かしら?
若者男性2人はいつの間にか私の隣にいてしっかりロックオンしているし、解せない。
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