237.ホラー的な登場と身内への危機感〜ミハイルside
「札に相応しいな」
初恋拗らせ馬鹿はそんな風に実妹を熱い視線で見つめるな!
……相応しい?
その言葉に引っかかり、魔法回路を確認すれば……。
「浄化の力がやけに強いな?」
雑な回路が羽根と鱗の、どことなく火と水のような相反する属性のバランスを絶妙に取り持ち、増幅させている。
教会が寄付金と引き換えに荒れた土地に施す浄化など比にならない程の浄化力がみなぎっていた。
これならあの嗤い狂う魔法呪からシエナを分離できるかもしれ……。
「いえ、足止め用でしてよ?」
うん、雑な回路を奇跡回路に変えた自信満々な本人はいまいちわかってなかった。
「そうだな、足止め用だ」
初恋拗らせ馬鹿よ、確かに間違ってはいない。
浄化中は嫌でも止まるだろう。
従来の性質も兼ね備えたままだ。
が、全面的に肯定感を押し出すのはやめろ。
何か違う。
「なあんだ、取りこめなかったの」
不意にブレた声が頭に響き、闇に光が差す。
口調からは少し前までの幼さが感じられない。
ギチギチと絞め上げていた蔦が弛み、隙間ができた。
だがその隙間に再び影が差す。
そして隙間から覗いたその顔に驚く。
母体となっている腐ったアルマジロの影響を受けたのだろうか。
札の空気清浄機能がなければきっと腐臭が漂ってくるのが想像できる、形容し難い歪んだ顔……俺が切り捨てると決めたシエナ。
全身が黒一色となって見た目の異形さか抑えられている事だけが唯一の救いだ。
「あらあら、ホラー的な登場ね」
場違いな程にのほほんとした声はもちろん……
一応令嬢のはずなんだが、悲鳴など当然のようにあげない。
チラリと妹を横目に見て……あれ、ちょっと状況がわからないぞ?
何でうっとりしているんだ?!
なのに目は好奇心に輝いている?!
「次はSとMなムチムチホラー……」
したり顔で何を呟いている?!
でも聞かん!!
何かはわからんが負けてはならない何かに負ける!!
これにはレジルスも……あれ、こっちもちょっと状況がわからないぞ?
愕然とした顔を妹に向けたと思ったら、底冷えする黒いオーラを放ちながらシエナを睨みつけた?!
下の黒い変態に向けた類いの黒い睨みだな?!
「チッ、雄臭の次は腐臭か」
心底悔しそうな声で王子が何言った?!
と心中でつっこんだ瞬間、ザッと蔦が勢い良くはけ、外の状況がわかる。
俺達は横倒しになったままの、シエナと同形態のアルマジロから生えた蔦にグルリと取り囲まれていた。
上半身だけのシエナが再び蔦から生え、霧のようになった黒い怨嗟を相変わらず撒き散らしている。
恐らくあの悪夢はこの怨嗟の影響を受けたんだろう。
もしかしたらレジルスも……。
だが最後にあったあの救いのような、胸を温かくする妹は何だったのか…………あ、札か。
今もほのかに胸に温かさを与えている。
聖獣の羽根凄いな。
だからかもしれない。
結界の外は異様な光景だし、危機感も覚える。
しかし結界内の身内へのそれの方が大きく感じてしまうのは。
羽根で防げるタイプじゃないから仕方ないな。
不意にシエナが動き、妹に近づこうとしたものの、結界に阻まれ、舌打ちする。
しかし気を取り直したようにギリギリまで近づいた。
レジルスがそれとなく妹を背に庇う。
「ふふふ、私が聖獣になったのが、偉くなったのがそんなに羨ましいの?」
とんだ勘違いだな?!
そのうっとりした顔も輝いた目も、絶対羨望のそれじゃない!!
優越感に浸る前に気づけ!
「でも残念。
私、あんたが大っ嫌いなの」
だが次の瞬間には憎しみに染まった顔になり、睨みつけながら言い捨てた。
その様はあまりにも醜悪だ。
「まあまあ、そうなの?」
しかし当の本人は途端に淑女らしい笑みになり、さらりと流してしまう。
何となくわかる。
今更何言ってるんだ、こいつとか普通に思ってる冷めた目だ。
そして実のところ、ほぼほぼ興味をもっていない。
むしろ今日の夕飯何にしようくらいに心は義妹だったシエナに向いていない。
かつてはそんな微笑みで流され続けた不甲斐ない兄だからこそ、そう感じた。
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