236.白刃取りからの、鱗〜ミハイルside

「2人共まだ起きないわねえ……これはやっぱりドッツキ祭りを開催すべきかしら?」


 意識の浮上を感じながら、そんな声が聞こえたような……ドッツキ?

……不穏だな。


 __カサカサ。


 紙の擦れる音……不穏だな?!


「「!!!!」」


 気合いで目を開ければ、実妹が頭側に立って左右の手にハリセンを構え、今正に振り上げたそれを俺達の顔に向かって振り下ろさんとする、いや、振り下ろしやがった?!


 恐らく隣にはレジルス。


 しかし気配を認知するのみで、俺は咄嗟に横に転がって避け、レジルスは眼前でハリセンを両手で挟んで止めた。


「ハリセン白刃取り……やりますわね」

「……それほどでもないが……そなたに褒められるのは何であっても嬉しいものだな」


 おい、何を寝ぼけ眼で惚けたようにうちの妹見てやがる?!

俺もそうすれば良かったか?!


「お兄様、残念でしてよ」

「……次は善処しよう」


 そして妹よ、兄を見て残念そうな顔をするな!

次は取る!


 辺りを見回せば、俺達はどうやらあの魔法呪の蔦に覆われていたらしい。

所々に黒いリコリスが咲いている。


 無事なのは俺とレジルスが咄嗟に結界で囲んでいたからか。

四方に張った結界は今も俺達を守り続けているが、蔦の締め上げる力が強いのかギシギシと軋みが出ている。


 このままだと結界の維持に魔力を消耗され、いずれは蔦に絞め殺されるかもしれない。

ジリ貧だな。


 そして俺達の胸元には例の札が貼り直されていた。


 すぐに札の回路を確認し、妙な連動型の起爆効果が無い事を確認する。


「大丈夫でしてよ、お兄様。

あれはたまたま起爆札なる物を厨二病的に決めるつもりで作った渾身の1枚でしたの。

残念ながらもう手元にはございませんわ。

間違ってお兄様に貼ってしまっただけで、あれは私のここぞという時の決めグッズでしたの。

それよりも、ハイ、どうぞ」


 またチュウニビョウ……絶対聞かん。

聞いたら何かに負ける気しかしない。


 ツッコミ所しかないが、絶対つっこまん。

つっこんだら何かに負ける気しかしない。


 そんな俺の葛藤はサラリと流して実妹は今しがた使ったばかりのハリセンを差し出す。

またこれで戦えという事だろうか……。


「それから、これ」


 またポケットから札が出た?!

今度で最後だよな?!

逆側の尻ポケットからだ。

そしてまたまたクシャクシャだな?!

またまた伸ばして2つに分けて渡すなら最初からもう少し丁寧に……ん?


「鱗?」

「ええ。

羽根だけでは味気ないので、鱗も付けたスペシャルバージョンですのよ」


 渡されたのはこれまでの羽根付きだが、1番上の1枚だけが違う。


 実妹はとてつもなく得意気だが……待て、この青銀の鱗の魔力残滓……やけに聖属性の力が籠もってないか?

羽根と同等だ。


「まさか……」

「王子?」

「聖獣……ラグォンドル……」

「……はあ?!」


 聖獣ラグォンドル?!

数ヶ月前、蠱毒の箱庭で見たが、何故その鱗を?!

しかも相変わらず隣の羽根同様にノリでベタベタ雑に貼ってるな?!


「まあまあ、それで綺麗な鱗なのですね」


 のほほんとし過ぎだ、妹よ?!


「確かに美しいな」


 それだけか?!

ただ頷いてるだけのようだが、第1王子としてそれで良いのか?!


「あの蠱毒の箱庭で落ちてましたの。

キラキラしていて綺麗でしょう。

もっと沢山落ちていれば良かったんですが、少ないしハサミで半分に割れなかったのでその2枚しか付けておりませんから、ここぞという時用に決めポーズでのご使用を所望致します」

「善処しよう」


 するな!

普通に使え、初恋拗らせ馬鹿!


 ついでに貴重な国宝級の鱗をハサミで割ろうとするな!

そもそも古新聞に貼るな!


「よ、用途は?」

「それも用途は同じでしてよ。

足止めくらいはできますわ、まだ試験運用しておりませんけれど」

「わかった」


 話題を変えたが、わかりきった用途だ。

 

「あ、でも起動ワードはせっかくなので変えております」


 変えるな!

むしろ設定するな!


「ワ、ワードは……」

「清めたまえ!」


 胸を張るな!

何で毎回毎回そんなワードを設定するんだ!

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