233.プレイ現場

「………………。

…………さない」


 __ビシッ!


「許さない。

お前みたいな賤しい子供が」


 __ビシッ!


「王女を名乗るのを許されるばかりか金環まで」


 __ビシッ!


 ああ、これはよくあった出来事ね。


 明らかに高級感のあるドレスを着て、真っ赤な髪に憎悪を滾らせた紫色の目で射殺すように睨みつけ、淡々と告げながら鞭をしならせている。


 その少し後ろには、薄く緑がかった銀髪に空色の瞳の少年がニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべながら眺めていた。


 今振り返って見ていても、そこに幼子がかなり悪趣味な光景よ。

今世の母といい、年を取ると鞭を振るのが好きになるのかしら?


 けれど昔自分を苦しめたはずのその光景を見ても思っていた以上に心は凪いでいて、本当に自分の中で終わった事なのだと自覚してしまう。


 それよりも、よ。

SとMなジャンルの小説の参考にできそうね。

こっちは母お気に入りの短鞭とは違って長鞭でしなるし、改めて見ると……鞭使いが上手い!

あちらの西部劇のカウボーイも真っ青よ!


 時に怖がらせるかのようにフェイント・ビシッ、着実に一点を狂いなく打つ肉裂き・ビシッ……やるわね!


 私はそれをしっかり観察して今後の執筆に活かすわ!


 鞭使いとニヤニヤ少年の周りをぐるぐる回って間近に観察するこの場所は見覚えのある建物の前。


 この建物はもう……そういえば今はどうなっているのかしら?

王宮の離宮の庭にポツンと建っていたはずだけれど、現在を知らないわ。

でもいい加減取り壊されているわよね?

建物の周りには何もない、当時を再現した雑草が所々生えた土くれ。

その向こうには寂れた石造りの建物。

あれが昔の離宮よ。


「ラビ」


 鞭を振りかぶった様を真横から観察していれば、不意に名前を呼ばれて上を見上げる。

するとボッと火の玉が出現し、それはすぐに見慣れた真っ赤な鳥へと姿を変えた。


「何だい、この胸くそ悪い光景は!」


 そのままバサッといつも通りに頭へ鎮座するとバサリと2つの対象に向かって羽を振る。


 __ボッ。


 途端に激しい火柱が2つ上がり、瞬きする間に灰になって消えた。


「ああ!

SとMなプレイ現場が?!」

「何言ってんだい?!

おかしな事を口走って?!

まさか呪いに囚われたのかい?!」

「ふふふ、いらっしゃい、リアちゃん。

生プレイを観察してテンションがおかしくなっていただけよ。

燃やすのはもう少し待って欲しかったわ」

「何だって?!」

「ほら、あの場に本来いたはずの幼い王女はいなかったでしょう。

アレはもうとっくに終わった事だけれど、どうせ昔痛い思いをさせられたのなら元を取ろうと観察していたのよ?

もったいないわ」

「…………ならいいさ」


 こうしてこの場所とあの2人が現れたのは、直前にリアちゃんが最初の死を思い出させたのもあったからでしょうね。


 リアちゃんは後ろのログハウスと目の前の建物にも羽を振って燃やしてしまう。

そうね、プレイとは関係ないからそっちはどうでも良いわ。


 それにしても見方によっては私達、火で巻かれたみたいになっていない?


「八つ当たりしなくても今さらよ」

「あの時見て見ぬふりしてた自分にも腹が立って……あふん」

「んふふふ、可愛いわ、リアちゃん」


 かつら化したリアちゃんを腕に抱え直して顎下のクチバシとの境い目辺りを指先でコリコリしてあげれば、再び艶めかしいお声が漏れる。


「あの時の事が申し訳ないと思うなら、時々こうやって素敵ボディを堪能させる時間に充てて欲しいのよ?

どうせならその柔らかな羽毛にお鼻をこすりつけてスンスンと……んぅいた、いた、いたぁ!」

「調子に乗るんじゃないよ!」


 リアちゃんたら照れ過ぎたのかバサッと私の手から飛んで、オデコを高速3段突きしてくれたわ。


「くっ……まるでキツツキのよう……」


 私はしゃがんでオデコを両手で高速擦りして痛みを誤魔化すわ。


「おかしいわね、ここは魔法呪の影響を受けた精神世界だけれど、主導権は渡していないから痛みは……ハッ」


 まさか、とバサバサ空中飛行する赤鳥を見やれば、鳥なのにニヤリですって?!


「契約した聖獣なめんじゃないよ」


 主導権に干渉したのね……。

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