225.俺じゃない〜ミハイルside
「公女、作戦はあるか?」
義妹が肉塊の上に下半身を埋没させてからは触手も中に収まり、黒い風がどこからともなく現れては吸収され始めた。
それに伴って丸い肉塊がヒビ割れ、耳や細長い鼻、短い三角尻尾のついた動物へと輪郭を作っていく。
義妹は多分そいつの背中らしき部分で胸に咲いた黒花を抱くようにして丸く身を屈め、眠るように目を閉じた。
次に何が起こるのか、全く読めない。
そんな中、王子は実妹に意見を求める。
多分放っておいて好きに行動されるとネタ探しに雄の部屋にフラフラ不法侵入しかねないからだ。
変態な実妹の行動も読めない。
「もちろん、お2人がアレの注意を引いている間に、背後から破邪符を貼ったらハリセンでバシバシして、振り向いたら逃げるので、お2人がまたアレの注意を引いて、また背後から私が貼ってバシバシして逃げるのを繰り返しましてよ!」
あ、そこは正面突破じゃないのか。
王族を最初から囮に使って背後から狙うつもりしかないところが、清々しいほどに最弱を自覚する逃げの猛者らしい発想だ。
「幸い、屋上には外からも登れる外階段があちら側にもございますわ」
見るとちょうど鼠っぽい何かに見え始めた塊の背後に外階段が見える。
鼠のように変化を見せる塊は亀の甲羅のような何かを背負い、頭や手足も甲羅に覆われている。
まるで鼠が鎧を纏っているようだ。
義妹は甲羅の真ん中でじっとしているが、黒い風を取り込む度に下に放置してきた黒い変態の時同様、鼠共々体が黒く、艶やかに染まっている。
変化していく様を観察しながら、ふと実妹の好奇心を感じ取り、釘を差す。
「まさかこの機に男の、
雄部屋は
自ら
「……上手い事仰るのね、お兄様。
素敵ワードに免じてそこは約束しましてよ」
多分過去初めて実妹に尊敬の念を抱かれた気がする。
やけにキラキラした目だが、期待感を持った目ではなく、敬いの目だ。
信用を失ったと知ってから、いつか兄としてそういう目で見られたいと願っていたが、思っていたのと何か違う。
ちょっと……このタイミングは違う。
というか、もしかしてどさくさに紛れて探索する気だったのか?!
止めに入っておいて良かった……妹のいかがわしさに狂気を感じる。
その時だ。
「ギュアアアアアア!!!!」
真っ黒に染まった肉塊だったそれがカッと真っ赤な目を開けて天を向いて咆哮を上げた。
耳をつんざく咆哮は、まるで赤ん坊が泣いているようにも聞こえなくはない。
そして、真っ黒に染まりながら目を閉じていた義妹が身じろぎ蕾が花開くように体を起こし、目を開けた。
「あっははははははははは!!!!」
咆哮の合間に聞こえる嗤い声はやはりブレていて、頭に直接響く不協和音。
そしてその目は混沌とした黒だった。
「それではお2人共、応援しておりましてよ!
祓い給え!」
あまりの耳障りに俺と王子は耳を押さえて身を固くしたが、実妹はそう言うが早いか黒い鎧鼠に走り寄り、咆哮と高笑いも何のその、手にしていた札を3枚に増やして黒い短足に貼りつける。
「「ギィアアアアアア!!!!」」
その途端、今度は鼠と義妹が同時に悲鳴を上げた。
「悪霊退散ー!」
バチーン!
目にも止まらぬ早さでハリセンで一発。
「「ギィアアアアアア!!!!」」
更に悲鳴を上げて鼠が巨体を揺らして黒い風が幾らか出て行くのも見る事なく、今度は逃げに集中を全フリした実妹は踵を返して俺達の脇をすり抜けて後ろのドアから脱兎の如く出て行った。
その間、数秒。
俺は実妹の足が駿足なのを初めて知った。
ついでにすれ違いざまにふわりと髪が舞い、隠れていた耳の耳栓が見えた。
いつの間に?!
「来るぞ!」
「はっ」
あまりにほぼ一瞬のような出来事に気を取られてしまったが、鼠が突進してきたのを警告するレジルスの声に我に返って示し合わせたように互いに反対方向へ躱す。
「おにいさまー、おしおきだからー」
しかし狙いは俺に定まったようで、鼠がこちらに鋭い牙をのぞかせる口を開けて噛み千切ろうと追いかけてきた。
だがシエナよ、やったのは俺じゃない。
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