224.独創的かつ明るい魔法具〜ミハイルside

「卵とは、何だ?」

「せいじゅうの、たまご。

わたしの、まりょく、たりない。

しんゆうがヘイン、まりょく、あつめて、たまご、よりしろ。

なのに、つかえない。

まりょく、なくなったの」


 拙い言葉の羅列を必死に拾って理解に努める。


 聖獣の卵?

義妹の魔力では足りなくて親友?

義妹に親友と呼べる誰かがいたのか?

そいつが、まさかヘインズ=アッシェの魔力……いや、だとすると義妹と黒い変態は純粋な魔力の塊ではなかった?

本当に生霊じゃないよな?

とにかくヘインズの何かしらに倒れていた生徒達の魔力を入れこんで卵の依代にしようとしたと?


 魔力が無くなったのはあの2人がハリセンで叩きまくって俺が止めをさしたからだろうか。


「だから、たまご、くさった。

わたしを、あたえて、たまご、いっしょ。

わたし、せいじゅう、けいやくしゃ。

おうじのあい、あるのよ。

このくに、あいされる、おうひ、なる」


 もしかして、黒い変態が半透明ヘインズだった頃には少なからず卵の依代として同化していたんじゃ……黒い変態から出ていた腐臭はそのせいで?


 たすけて。

ふと、無言の言葉で何度も実妹に助けを求めていたのを思い出す。


 何故魔力の低い実妹に求めたのかは謎だし、かつて昼寝でそこの王子を魔法呪から救った事を知っているとは思えないが、第2王子の側近顔で城に出入りしていたから知らなかったとも言い切れない。

もしかしたら呪いに侵されたからこそ実妹の中に救いの存在があって、それに気づく何かがあった可能性も捨てきれない。

それくらい魔法呪には謎が多い。


 実妹が気になり、そちらに目をやれば……何故だ?!

こんな状況で祖母の目?!

レジルスは実妹を庇うように前に立ち、相変わらず愉悦に歪んだ顔の義妹に絡みつく触手の根元、人の何倍もある肉塊を鑑定していてこちらを向いていない。

が、実妹はしっかり俺を見て……やれやれ、みたいな感じで首を振った?!


 何だ?!

何か俺は勘違いをしているとでも言いたいのか?!

しかもこんな状況でだいぶ冷静だな?!


 ま、まあ今は義妹だ。

今の義妹が契約者など到底あり得ない。

間違いなく依代として同化している。

まるで義妹自身も魔法呪の塊だ。


 もしこの雑な札が無ければ俺達3人はあの黒い風に侵されて何かしらの呪いを受け、義妹のようになっていたかもしれない。


 何故だ……第2王子に薄っぺらい好意を愛情と勘違いさせられて、この国の王妃になるのを夢見たのか?


 王子はもちろん、お前だって真に愛し合ってなどいなかっただろう。

元々第2王子に王の素養はなかった。

本人も流されてそれとなく王座を狙う素振りはあったが、本気で望んでいたかは怪しい。


 それに何より、俺がお前を勘違いしていた頃からわかる者にはわかっていたんだ。

お前の本性がどんなものか。


 お前にも王妃の素養はなかった。


 自分の中でそう結論付けた時だ。


 義妹の首から下を覆っていた赤黒い触手が下半身へと移動し、禍々しさを感じる黒いリコリスの咲き乱れる半透明の上半身が顕になった。

下半身の触手が蠢きながら、肉塊のほうへと戻っていく。


「シエナ!」


 思わず反射的に叫んで触手に炎を纏わせる。


 しかし、炎が上がるだけで触手には傷1つない。


「あはっ、むだ、おにいさま。

せいじゅう、よ。

おしおき、でも、あにだ、もの。

みのがし、あげる」


 義妹は嘲笑いながら、肉塊の上部に埋もれていった。


「くそっ」

「落ち着け、ミハイル。

下手に攻撃するな。

あれはもはや魔法呪そのもの。

いわゆる呪物だ。

やるなら聖属性の魔法……いや、やはりこのハリセンと破邪符を使うのが周りへの被害的にも少なくて良い」

「……他に何か……」

「無いな。

独創的かつ明るいこの魔法具こそが最適だ」


 くそっ、ここにきて雑な魔法具の本格的な出番とか、緊張感に欠け過ぎるだろう?!

状況が既に呪われてないか?!

一瞬王子の頬がひくついたのを見逃してないからな!

ずさんでけばけばしい魔法具って思ってるのは知ってるからな!


「ふふふ、そうでしょうとも!」


 ツッコミ用具と空気清浄札のつもりだった魔法具の製作者は胸を張ってだいぶ得意気だな!

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