223.奇跡魔法具と色づいた義妹〜ミハイルside

「さあさ、ハリセン・ドッツキ祭りですわ!

負かしてヒーヒーいわしあげて差し上げましてよ!」

「待て待て待て待て!」


 既にツッコミの嵐で心中荒れ狂う中、更なるツッコミ所を提供するな!

絶対どつくを柔らかい表現に変えようとして失敗したやつだろう!

お前がいわしあげられるだろう!


「どつくとドッキリをかけ合わせましたのよ?」

「!!」


 何故わかった?!


 はっ……そのネーミングセンスでわかって当然なのに仕方ない子ね、みたいな常識のない孫を諭そうとするかのような祖母の目は止めろ!

お前のネーミングセンスは非常識だ!


「俺は気づいていた」


 ついでに初恋拗らせ馬鹿は便乗アピールするな!


「触れても良いか?」

「まだありますから、一束どうぞ?」


 ……もう片側のポケットからも出てきたぞ。


 そっちもシワになっているのを見て苦笑しながら伸ばしてあった方を渡すのは、まあいいんだが……見た目より機能性ありそうなスカートだな。


「これは……」


 受け取った札に魔力を通した王子が驚いた顔をして、包んでいた魔力を霧散させたが……異臭が消えている?


「お兄様もいかが?」

「あ、ああ……」


 これまたしれっとシワを伸ばした束を受け取り、俺も同じように魔力を通す。

回路は雑だが、これは……。


「公女、この札は……」

「魔力を通すだけで空気清浄する機能を付けましたの。

幽霊を封印しようと思ったんですけれど効果が無かったので、キッチンに東の諸国でポピュラーな神棚でも作ってそこに飾れば料理中の油の臭いを消してくれますわ。

その羽根をチャームポイントにしたら足止めくらいはしてくれるようになったので、あの子に貼って動きを止めたところをハリセンでバシバシすれば、完全勝利ですわね!」


 何故キッチンに?!

東の諸国の神棚とやらは耳にした事はあるが、下手くそで雑な工作物は飾ってないだろう!

そもそもミミズ文字のそれを飾るのはどうかと思うぞ!

完封負けしかねないからドッツキ祭りはやめろ!


「起動はまた空気清浄とは違うようだが……」

「ふっふっふっ、よくぞ聞いて下さいましたわ」


 あ、嫌な予感が……。


「起動ワードは祓い給え!

さあ、どうぞ!」


 言うが早いか本人は尻のポケットからシワのある1枚を取り出して起動してしまった。


 どれだけポケットついてるんだ?!

階段の昇り降りもスムーズだし、動きを邪魔しない機能的な作りだな?!


「祓い給え!」


 嘘だろう?!

王子は全く恥ずかしげもなく……いや、それとなく耳が赤い!


「はらい……」

「お兄様、声」

「くっ……祓い給え!」


 ブルッと起動した振動を札越しに感じた。


 何故そこで王子がブルブルするんだ?!

お互い様だ!


 俺の魔力が雑な魔法回路を走る。

俺の頬にも再び赤味が熱と共に走った。


 なるほど、この羽根が雑な回路を上手く繋げて……浄化の力を内に向かって閉じ込めている?!


 これ……対魔法呪に侵された人や物にこそ効果的なんじゃ……。


 これなら結界が無くても自分に貼りつけておけば魔法呪に侵される事がない。

どんな奇跡魔法具だ。


 王子と目を合わせ、無言の意思確認をしてから頷いて俺も結界を消す。


 黒い風も臭いも、もう感じさせない。


 しかも実妹仕様に作られているからか、維持させる魔力消費が少ない。


「さあさ、まいりますわよ!」


 しまった、驚きの奇跡魔法具に意識を持っていかれて実妹を止め損なった!


 王子の脇をするりと素早い動作ですり抜けた実妹の後を追えば……地獄絵図のような光景に……絶句した。


「おにいさま、いらっしゃい」


 恍惚の表情で、どこかぶれたような声を発しながら迎えたのは色をつけた義妹のシエナ。


 だがその体は今、何本もの赤黒い肉の触手に絡まり、黒い風と恐らくは腐臭を撒き散らしながら埋もれていた。


 何だ……アレは。


「ふふふ、やっとたまごからかえったの」


 俺達の方を向く義妹に悲壮感も恐怖もない。


「お前は……シエナ、なのか?」

「そうよ、おにいさま。

こうじょ、しえな、ろぶーる。

おにいさまの、ほんとうの、いもうと」


 愉悦に歪み、ぶれた声は少しずつ幼さを感じさせる口調へと変わっていった。

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