222.古新聞短冊切り〜ミハイルside
「もう少し何かあっても……」
「ラビアンジェ、上で魔り……幽霊が溜まっているから、まずはハリセン活動をしよう」
王子と俺で前後に挟まれた、微笑みながらもどことなく不服そうな実妹をなだめつつ、寮の屋上へと3人で向かう。
本来はどこか安全な場所に置いて行きたいが、それはそれでこの実妹が隙を見て興味を優先させそうで怖い。
いかがわしいモードに入っている実妹によって周りが何かしらの危険に曝されそうだ。
無才無能云々の評判は今更だが、痴女とか変態方面の汚名……いや、もうそれは犯罪歴だな。
それがつくのはロブール公子としてというより、真実であるからこそ兄としてちょっと嫌だ。
多分家の力を使って全力で火消しに走るが、何か嫌だ。
まさかこれまでにも……いや、よそう。
考えると沼に陥り……。
「着いたぞ」
「早かったですわね……臭いがここからも……」
隙あらば脱走する気しかなかっただろう逃げの猛者を屋上への入口まで連行できて何よりだ。
先頭の王子が開けるまでもなく、屋上のドアはこちら側に吹き飛び、下の変態風よりも強烈な腐臭が流れてくる。
腐臭を運ぶ黒い風は変態の出す風よりも孕む何かしらの質が濃いな。
これは魔力というより魔素に近いが……どこか違和感を感じる。
下のは色が黒いだけの魔力のように見えたが、実は下の風もそうだったのか?
「やはりな」
王子はそう言うと、俺達の周りを自らの魔力で包む。
「ミハイル、なるべく聖属性の魔力を意識して密度の濃い結界を張れ」
「どういう事だ?
屋上にいる何かの正体がわかったのか?」
「下の変態の時にも鑑定でもしやと思ったが、多分分身のようなものだったのだろう。
今ひとつはっきりしなかった。
だが屋上のアレは間違いなく本体だ」
こちらを振り向かず、先に進もうとしない王子の首筋は薄っすらと汗ばんで緊張を伝えてくる。
「アレは魔法呪に侵された何かだ」
かつて呪われていた王子を幼かった実妹の昼寝によって救われた話を聞かされてから、時間はさほど経っていない。
【魔法呪は魔法とは似て
万物の
呪う者、呪われる者のどちらも不幸にせしもの。
決して使う事なかれ】
いつだったか、何に書かれていたか忘れてしまうくらいに随分と昔だ。
邸に保管されていた古い文献だったはずだが、そのある一節に書かれていた。
解呪される側もする側も命を危険に曝され、後遺症をどちらにも遺しかねない代物だ。
祖母は作り話だと否定したが、何十年も前に稀代の悪女が悪魔を使ってこの国や祖母に魔法呪をかけようとしたとかいう逸話もある。
元々その類の魔法は禁忌、本は禁書指定されていたが、当時の国王に成り代わり政を行う前々国王や前王妃達によって徹底的に排除された歴史からも、あながち作り話ではないように思っている。
「王子はラビアンジェを連れてここから離れて下さい。
私はシエナを……」
あのシエナは本当に魔力だろうかとずっと疑問に感じていた。
あの恍惚の変態となったヘインズも多少の違和感はあったが、魔力である事に間違いはない。
だが俺の胸に手を置き、激痛を与えたシエナも魔力ではあったが内包する魔力が濃く、そして違う力もいくらか感じさせた。
まるでそこの黒い何かが放つ魔法呪の気配のような。
「却下だ。
ミハイルが公女を連れて……」
自分1人が危険を背負うような発言で俺が言い終わらない内に王子が遮る。
「まあまあ、それこそ却下でしてよ?」
そして更にそれを実妹が遮ってしまう。
「ロブール家義理姉妹初チャンバラハリセン祭りは絶賛開幕中ですもの。
それに……」
追いかけっことバトルはどこにやって、いつから祭りになった?
実妹のネーミングセンスが心配だ。
「実は破邪符も作って虎視眈々と実験の機会を狙っておりましたのよ!
ババババン!!」
効果音を得意気な顔で自分で言うな!
古新聞短冊切りにした雑な工作物に貴重な羽根を雑に切って貼りつけるな!!
ポケットにぐしゃぐしゃに入れるな!
しれっと気づいて魔法で温めながらシワを伸ばすな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます