221.拗らせ初恋馬鹿〜ミハイルside

「どういう事だ……」


 変態が黒い風に包まれて暴れる中、王子が眉をひそめる。


 恐らく俺と同じく鑑定魔法を使ったんだろうが、王子にいくらか遅れた形で鑑定した俺の方は魔法を弾かれてできなかった。


 魔力が多く、魔法の才がある王子はどうだったんだろうか。


 だがそれよりも……臭い。


 鑑定よりも先に実妹を背に庇いつつ咄嗟に障壁を張ったが、黒い風は弾いても腐臭のような悪臭はそれを透過してしまう。


 風は結界のこちら側の変態部分から飛び出しては再び中に吸収されてを繰り返しながら黒さと臭いを増しているように感じた。


 逆に結界の向こう側の変態部分からは透明な魔力が1つ2つと抜けて行ったかと思えば、まるであの飛んできた魔力が行き先を見つけたかのように一気に抜け、変態は引っかかっていた結界からズルズルとゆっくり滑り落ちた。


 実妹達の練習と俺の最後の一発によって幾分黒さが薄くなり、結界の向こう側だった上部は赤髪を見せて半透明に戻りつつあったが、再び黒く染まっていく。


「とりあえず臭いが酷いので寮の中に緊急避難しませんこと?」


 あっけらかんとそう言うが早いか、実妹はスタスタと寮の方へ向かう。


 相談ではなく決定事項を告げただけだったらしい。

それにしても随分と冷静だ。


「待て、ラビアンジェ。

シエナの魔り……生霊が入って行ったが、様子がおかしかった。

私が先に……」

「面白い事を仰るのね?

あの子がおかしくなかった事は初対面で目を合わせた直後からこれまで、過去1度もございませんわ。

生霊になって被っていた猫ちゃんが脱走したみたいですし、自己主張がその分いくらか激しくなりましたけれど、あのお顔も今更でしてよ」


 幽霊や生霊だと思いこんでいるであろう実妹に話を合わせれば……今更?

初対面から義妹は義姉にあたるラビアンジェにあんな悪意を向けてきたと?


 何故だ……理由がわからない。 


 しかし長年義妹のそれを受け流してきただろう実妹は、恐らく義妹そのものを歯牙にもかけていない。


「それにどうせなら、ハリセンソードをあの子にもお見舞いしてみたいですし。

今なら力任せにやってもバレませんわ」

「いや、バレるだろう」


 愕然としていれば、完全犯罪を確信するかのような言葉に半ば無意識にツッコミを入れる。

ハリセンにツッコミたくなる効果でも付与されているのかと心中では自分につっこんでしまう。


 というか、俺達の目の前でやったらバレるとか以前の問題だぞ。

今回は実妹も義妹に何かしらの歯牙にはかけていると認識を改めたが、かけ所が何か違う。


「ではお兄様は外でお待ちになって?

これからロブール家義理姉妹初チャンバラ追いかけっこハリセンバトルを開幕致しますのよ」

「物騒なのかコントなのかよくわからないネーミングをつけて開催しようとするな」

「判定は俺がしよう」


 いつの間にか実妹の隣に来た王子が、いや、もう初恋馬鹿でいいか。

初恋馬鹿がキリリとした顔でアピールする。


「王子はそれとなく混ざって後押ししないで下さい」

「よろしくお願いしますわ」

「ラビアンジェは仮にも王子にハリセン判定をさせるな」

「チッ」

「まあまあ」


 くっ、俺が悪いのか?!

初恋馬鹿は舌打ちするし、実妹は……何故か再び祖母の目を?!


「それではまずはロブール家義理姉妹初かくれんぼ選手権ですわね。

鬼は私ですから、お手伝いはしちゃいけませんわよ」

「わかった」

「……」


 駄目だ、兄はもう何も言えない。

寮に足を踏み入れたら実妹的には開幕だったらしい。


 初恋馬鹿みたいに頷く気力も湧かないが、チャンバラと追いかけっことハリセンどこに置いてきたとだけ心中でつっこんだ。


「まずは鍵の空いているお部屋から……んふふ、男子寮の題材発掘……んふふふふ」


 ボソボソ呟く実妹の本音らしき何かを耳が拾う。


 あ、これ多分かくれんぼとか言いながら、いかがわしい小説の題材探そうとしてるやつだ。

実妹の目がやばい犯罪者に見えてきた。


「公女、人のプライベート空間に無断で入るのは良くない。

それにかくれんぼは駄目だ。

屋上に行こう」


 おお!

初恋馬鹿がまともに諌めて……。


「俺以外の雄の臭いを嗅がせるかよ」


 おい!

黒い顔で実妹に聞こえない声量でボソッと何呟いた?!

お前絶対、初恋拗らせてるだろう!!

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