218.チュウニビョウとハリセンソード〜ミハイルside
「さあさ、次の獲物はあなた達でしてよ!
しっかりツッコミますわ!」
「待て待て待て待て!」
もの凄く楽しそうにツッコミどころ満載発言ぶちかまし、1番非力な奴が明らかに他と違う人型魔力の所に行こうとするな!
お前が獲物になるだろう!
「援護しよう」
「だからお前も待て!」
すっかり敬語も忘れてお前呼ばわりまでしてしまった。
初恋フィーバーか!
「まあまあ?
もしやお兄様が仕留めたいと?
でしたら涙を飲んで譲って差し上げましてよ。
魔法具ですから、魔力を流して使って下さいな」
その言葉に改めて手元を見れば、やはり雑な魔法具だ。
どうして新聞紙を使った。
しかもこれ、何年前のだ。
かなりの枚数を蛇腹に折り曲げているから、無駄に強度はある。
絶対、図書室にある無料配布の古新聞だろう。
聖獣の羽根貼りつけるなら、せめてちゃんとした紙にしてくれ。
「さ、どうぞ、どうぞ」
もの凄くハメられた感がある。
いつの間にか淑女の微笑みを浮かべていた実妹に促され、悪霊退散ハリセンなる物を握りしめて前に出て行く。
魔力を流すが……起動しない?
「あ、お兄様。
ちゃんと悪霊退散と掛け声をかけないと、そのハリセン起動しませんの」
「何故そんな機能をつけた……」
本気か……魔法ですらも余程のものでない限り、詠唱はしないぞ。
「……気分?」
「くっ……わかった」
気分でいらない機能を付けるな。
おい、レジルス……実妹の後ろにそれとなく下がったかと思えば……肩を震わせてこっそり笑うな!
「あ……悪霊……」
「声が小さいですわ」
「くっ……悪霊退散!」
ブルッと起動した振動をハリセン越しに感じた。
ついでにレジルスもブルブル震えた。
俺の魔力が雑な魔法回路を走る。
俺の頬にも赤味が熱と共に走った。
なるほど、この羽根が雑な回路を上手く繋げて浄化の力をブーストしているのか。
どんな奇跡回路だ。
「お兄様、当てる時も決め台詞として悪霊退散を所望しますわ!
来たれ中二病!
ハリセンソード!!」
チュウニビョウとは何だ?!
本能が不穏だと告げている!
ハリセンはいつからハリセンソードになった?!
声援が痛い!!
頼むから実妹史上初の、キラキラと期待に満ちた曇りなき
兄は期待に応えるしかなくなる!!
しかし結界の中に足を踏み入れた瞬間、半透明ヘインズが心臓のあたりを押さえ、苦しみ始めた。
よく見れば、寮の入口からヒュッと半透明の帯状へと形状を変化させた魔力らしきものが勢い良く飛び出し、半透明ヘインズにぶつかって吸収されたように消えていく。
それまでは輪郭と肩口の辺りまでがおぼろげに色づいて見えていたが、色が濃くなるにつれて上半身が顕になる。
いつの間に胸元に赤いリコリスが浮き出ていたんだ?
半透明な体が徐々に色を濃くしていき、それに合わせて花の色に黒が混ざり始めた。
『……!
……!』
声は出せないのだろう。
声なき声を上げ、必死に何かに……いや、実妹ラビアンジェに縋るように手を伸ばして歩を進めるも、結界に阻まれてそれ以上は進めない。
「ヘインズ!
意志があるのか?!」
必死な様子にただの魔力の塊ではない何かを感じて顔をのぞきこんだ。
た・す・け・て?
何かを必死に紡ぐ唇の動きを読めば、そう動いている。
『………………!!!!』
不意に激痛が体を突き抜けたかのようにビクリと体を反らせば、黒花となった花色が顔以外の全身を一気に漆黒へと染め上げ、胸に埋めこんだかのように同化した。
そうして立ったまま、ガクリと項垂れた。
「全身黒タイツ……ここでそうくるとは、さすが生霊……」
頬に片手を当ててうっとりした顔をする実妹。
レジルスは口元を隠してまだ揺れている。
ちょっと色々意味がわからない。
「あの子もそうなるのかしら?」
そう言って、後ろへ動いたうっとりしつつも何かを期待する眼差しを追えば……。
「シエナ……」
意味もなくそう呟いてしまう程に、義妹は愉悦に歪んだ顔をヘインズに向けていた。
アレは……何だ……。
何故そんな顔を……。
凝視していれば、愉悦の顔はそのままに、瞳に殺意をこめて俺の実妹を見た。
こ・ろ・し・て・や・る。
唇は…………そう動いた。
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