217.聖獣の羽根と生霊の特権〜ミハイルside

「ラビアンジェ……何をしているんだ?」

「あらあら、お兄様も実験ですの?」

「実験……とは?」

「幽霊退治の実験でしてよ」


 胸を張るのも、実験結果とやらに気分が高揚しているのかいつもの微笑みがなりを潜めているのも良いが、やっぱり話の意味がわからない。


「もしかして、あの半透明なのを幽霊だと?」

「左様ですわ、お兄様。

ラルフ君が以前、半透明のシエナを見た事があると……まあまあ、シエナは生きていましたわね?

という事は、生霊?

ふふふ、魔法では説明できない何かはまとめて幽霊でかまいませんわね」


 まとめ方がざっくりし過ぎだ。

絶対レジ……王子もそう思っているぞ。


 あと、半透明なのは魔力だ。

何でか人型だが、魔力そのものだぞ。


 魔力をきちんと見ればわか……わからなかったんだな。


「そうか……確かに幽霊っぽいから、それで良いな」

「そうですわ」


 そうですわ、じゃない。


 王子、初恋馬鹿になるな、話を合わせて頷き合うな。

それで良くない。


「その工作物は何だ?

随分とずさ……独創的でけば……明るい感じだな」


 王子よ……ずさんとか、けばけばしいとか言おうとしてなかったか?


「悪霊退散ハリセンですわ。

東方での伝統工芸品、音の音頭を取る道具が進化してこうしたツッコミグッズが出来上がったんですのよ」

「悪霊……ツッコミグッズ……」


 そこは幽霊退散グッズじゃないのか?!

むしろ大真面目かつ、得意気な実妹の言葉がツッコミだらけだな?!


「その羽根は?

触れてもいいか?」


 王子が障壁の外に出て行く。


「どうぞ。

まだたくさん腰に差しておりますもの。

お兄様も差し上げますわ」


 俺も後に続けば、実妹はクルンと回って背中を見せる。


「ご自由にお取り下さいな」


 下手くそな工作物がウエストの隙間に無造作に何本も差してある……公女……女性としてどうなんだ。


 真正面からしか見てなかったからわからなかった。


「いただこう」


 いただくのかよ。


「お兄様もどうぞ?」

「あ、ああ、ありが……とう?」


 妹よ、早く取れと言うかのように尻を左右に揺らすのは止めなさい。

どこの城下のオバサンだ。


「羽根は随分と前から落ちてるのを見つけた時にコツコツ拾っておりましたの。

綺麗なので彩りによろしいでしょう?

しかも長いので切って使えてコスパも良いのです。

最初は何も付けずに魔力回路を描いて幽霊に当てようとしたのですけれど、流石幽霊。

やるやつですわね。

スカッと空振りでしたの。

という事で見た目も派手にしてツッコミ用にでもしようかとくっつけたら、何故か幽霊に当たるようになりましたわ」


 待て、この羽根の魔力残滓……やけに聖属性の力が籠もってないか?


「まさか……」

「王子?」

「聖獣……ヴァミリア……」

「……はあ?!」


 聖獣ヴァミリア?!

姿を見せなくなって久しい聖獣達の中でも、最古と言われる聖獣で鳥型だが……あの?!


 え、そんな羽根を切ったとか言って……あ、切ってる。

普通に大胆カットして、ハリセンとやらの前後を挟むようにノリでベタベタ雑に貼ってるな?!


「まあまあ、それで綺麗な羽根なのですね」


 のほほんとし過ぎだ、妹よ?!


「確かに美しいな」


 それだけか?!

ただ頷いてるだけのようだが、第1王子としてそれで良いのか?!


「あら、中から出て来ましたわ?」


 不意にそう言って結界の中を見やる妹につられてそちらを見れば……。


「ヘインズ=アッシェ?」

「シエナもいますわよ?」


 寮の出入り口から出てきた2人の半透明な……あれは魔力なのか?


 義妹は入口で止まり、ヘインズはそのまま進み、障壁の前で立ち止まった。


 義妹は憎々しそうに、ヘインズは恐怖に歪めた顔をそれぞれ実妹に向ける。


「何故……」


 怪訝そうに呟いたのは王子だ。


 もちろんあの人型の魔力がそんな顔を、この中でツッコミどころも無力さもダントツ1位のラビアンジェ=ロブールに向けるのかという意味での何故も含まれているかもしれない。


 だが1番不可解なのは……。


「まあまあ?

この2人にはお顔がついてますのね。

自己主張が激しいのは生霊の特権でしてよ」


 実妹はしたり顔でふんふんと頷いているが……前半はその通りなんだが……後半はちょっと意味がわからない。

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