216.下手くそな工作物〜ミハイルside

「やはり男子寮へ集まっていたか。

今入ったあの2体以外も集まっているが……魔力が1つに融合しつつある」


 途中出くわした人の形をした半透明の何かは、男子寮の入口まで来ると寮の中へと入っていく。


 それらは学園で見た事があるような学生を形どっているが、色は薄ぼんやりして顔面は鼻だけ。

のっぺりしていて意思があるようには見えない。


「魔力が何者かの干渉を受けて持ち主の姿に具現化しているようだな」

「そのようだ。

あれ自体は単なる魔力の塊で意思はない」


 俺の言葉にそう答えると、レジルスは魔法障壁を男子寮全体に張る。


「ただの障壁ではないな」


 内側から障壁に触れ、更にぐるりと見渡してそう結論づける。


「ああ。

外から入ろうとする魔力だけを弾くようにした。

これで新たな人型の魔力が中に入る事はない」

「しかし、何故マーキング紋から直接魔力を奪わないんだ?」


 ふと疑問を口にする。


 途中倒れていた男子生徒の胸元を確かめれば、ヘインズと同じ赤いリコリスが浮き出ていた。


 流石に令嬢達の胸元は確かめられなかったが、恐らく彼女達にもあるのだろう。


「詳しくは俺にもわからない。

だが話を整理すれば、こうなる前から顔色は悪かったらしいし、そなたの義妹も食堂前の通路で見かけた時からそうだった。

いくらかは紋から奪っていたんじゃないか?」


 義妹は夏休み前から部屋に引きこもる事が多く、あまり顔を合わせていなかった。

だが生徒会や月に1度の夕食会で顔を合わせた時にどことなく顔色が優れなかったのは間違いない。


 念の為診ようと言った事もあるが、貧血が少し酷くなっただけだと言って拒否されていた。


 保健室で寝かせた生徒会役員の令嬢達とヘインズも、夏休み中に何度か顔を合わせたが、どことなく顔色は優れなかった気がしないでもない。


「言われてみれば、確かにそうかもしれない。

しかし全員倒れる程ではなかった、か。

具現化させないとならなかった理由は何だと思う?」

「逆かもしれない」

「どういう事だ?」

「倒れて魔力枯渇症状を引き起こすくらい大量の魔力が必要になった。

だがマーキング紋から奪える量には限りがあるはずだ。

マーキング紋の本来の役割はあくまで印であって、魔力の抜き取りは付属効果にすぎない。

当然に抜き取れる量はしれているが、印をつけられた者があまりに多い。

合計すればかなりの量を抜き取っていたと考えられるが、今はそれ以上に抜き取る必要があった。

理論はわからないが、具現化はそのせいで起きたのかもしれない。

だが倒れている者達が少し限定的なのは気になる」

「限定的……そうだな」


 レジルスの言葉に倒れた学生達を確認しながら移動してきたからこそ、頷く。


「倒れた者達の殆どが1年Aクラス。

それ以外の学年でもAクラスが最も多い。

後はそなた以外の生徒会役員か」

「……ああ」


 同意しながらも、ふと義妹の顔がちらつく。


 学年は違っていても、倒れた者達はあの箱庭の事件が起こる前まで義妹とよく話をしていた学生達ばかりだ。


 それに……何故薄ぼんやりした顔の無い半透明な人型の1つをシエナだとドミニオは判断できたんだ?


 赤系統の髪色でもヘインズのような、赤が全面に出た特徴的なものならわかるが、シエナは違う。

母親譲りだろう茶色味がそれなりに濃く、令嬢の3割、平民なら半数を占める茶色系統の髪色だ。

それにドミニオは学園内でも同じ平民と接する事が多かった。


 まさか……いや、考え過ぎであってくれ……。


「悪霊退散ー!」


 バチーン!


 不意に結界の外側から何語かわからない言葉と、何かが勢い良く当たって弾ける音が聞こえた。


 考え事など頭から吹き飛び、反射的にそちらの方向を向く。


 地面にうつ伏せで倒れた半透明が、煙のようにふっと形状を変え、校舎の方向へ吸い込まれるようにして消えるのが視界に映る。


「元の持ち主へ還った、だと……」


 呆然と呟いたレジルスは、恐らく索敵で魔力を追ったのだろう。


「んふふふー!

実験成功ね!」


 そこには蛇腹状に新聞紙を折り、所々に赤い羽根を貼りつけた、子供が作ったような下手くそな工作物を片手で天に掲げ、もう片手を腰に当ててふんぞり返った実妹、ラビアンジェ=ロブールが立っていた。


 兄はちょっと状況が飲みこめない……。

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