210.待て待て、初耳だ!〜ミハイルside

「もう1度説明を頼めるか」

「は、はい」


 王子が訝しげな様子で再度説明を求めるが、彼の理解力が悪いわけではない。

正直俺も受けた報告の意味が理解しきれなかった。


 リーダーは……表情が基本無愛想寄りで読めないな。


 突然乱入して話を阻んだのは、よく知る男子生徒だった。


 彼はまだ第2王子が健在で、他の役員達が示し合わせたように実妹ラビアンジェを貶める中、唯一それに同調しなかった3年生の生徒会役員だ。


 他の者達を諌めこそしなかったが、生家は富裕層とはいえ平民。

王族や高位貴族達にそんな事はできるはずがない。


 しかし彼が運んできた侯爵令嬢達の1人、彼と同じ学年の役員が日和見主義と罵ろうとも同調だけは決してせず、一線を引き続けていただけでも立場や優劣を見極めている優秀な生徒だとわかる。


 そんな彼が両手にそれぞれ抱えながら……いや、腰に手を回してうつ伏せ状態で荷物のようにぶら下げながら鬼気迫る様子で慌てて入ってきた。


 恐らくそこのリーダーと同じく保健室のドアを足で開けた気がしないでもないが、力加減なく開けたせいでけたたましい音がしたのはあえて聞かなかった事にする。


 身体強化を使っていたのだろうが、腕がブルブル震えて限界を訴えていたのに気づき、俺とリーダーが1人ずつ引き受けている。


 チーム腹ペコのリーダーは気遣いと動ける男のようだと感心しつつ、ベッドの空きを全て埋めた令嬢の1人を改めて診れば、義妹と同じく青いのを通り越した白い顔色だ。

枯渇寸前まで魔力を失っている。


 向こうの令嬢を診た王子も、俺達の様子を窺っていたリーダーもそれに気づいただろう。


 どういう事だと先にいた俺達3人が眉をひそめたところで、ヘナヘナと床に尻もちをついて息を整えていた役員が早口で話した。


 その顔は未だに恐怖からか引きつっていて、王子も2度目の説明を求めたのがいささか申し訳ないと感じているように見える。


「僕達3人は生徒会室で時間がくるのを待っていたんです。

他の役員達はまだ来ていませんでした。

そうしたら、急にその2人が感情的に話し始めたんです。

本当にささいな、寝癖がついている、いないから始まりました」


 少し具体的なエピソードが追加された2度目の説明をしてくれているが、引き金は寝癖なのか?!


 もちろん新たな情報が出ても、話のこしを折るつもりはないが……。


「どんどんヒートアップして化粧とか、今日の服装とか、ドレスとかに変わっていって……そうしたら2人揃って魔力暴走を起こしかけた。

小さな子供でもない、魔力量の多い高位貴族令嬢が2人揃ってです。

あり得ますか?!

僕1人じゃ2人の暴走を止められないし、防げない。

まずいと思って部屋から出てドアに魔力障壁を張ったんですが、何も起こらなくて……中を覗いたら2人が顔色を悪くして倒れていた。

いや、その前からどことなく顔色が優れていなかったようには思っていたんですが。

他の役員達もまだ来ていなかったし、どちらから保健室に連れて行っても平民の僕じゃ角が立つ。

だから2人を同時に抱えて廊下に出たんです」


 先に倒れていた2人と同じだ。

興奮した理由は全く違うが、状況は酷似している。

ここまでは理解できているが、新たに判明した令嬢達の争点は難解だ。


「そうしたら……半透明の人達がフラフラと歩いていて……あ、どこかに向かっているようでした」


 ここからだ。

半透明って何だ?

昔から時々聞く幽霊とかいうやつか?


 目的地に向かうのは今思い出したんだろうな。


「他の奴ら?」


 待て、リーダー。


 って何だ?


 寡黙なのはいいが、情報は共有してくれ。


 もちろん今までこれといった話をした事はないから仕方ないが、無表情がデフォルトな顔は感情が読みづらい。


 言われないと何を考えているのかすらわからない。

付き合いがまだ短い時の王子といい、このタイプはこういう時に厄介だ。


 まあ訓練だと思えばいいんだろうが。

 

「よく見たら半透明なのは倒れてた人ばかりで……あ、シエナ嬢とヘインズ先輩も歩いていました」


 待て待て、初耳だ!

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