211.今……誰に許しを〜ミハイルside
「わかった。
ここに来るまでにどれくらいの者達が倒れていたか覚えているか、ドミニオ?」
息が整ったのだろう。
ドミニオと呼ばれた彼の顔はまだいくらか強張っているが、床から立ち上がる。
王子の問いに、少し考えてから口を開く。
「1年生が多かったように思います。
僕が見たのは廊下に7人。
それと途中の職員室で1年Aクラスの担任と学生2人が倒れていました。
2年の学年主任は無事で、状況を確認していました」
となると今いる教師で確実に無事な可能性が高いのは、ここにいる王子と2年の学年主任ということか。
今日当直に当たっている教師は3人だ。
「寮の方は今の時期3分の1が戻ってきているが、その内半数は冒険者や騎士見習いの訓練でいないはず……」
『全校生徒の皆さんに緊急のお知らせです。
校内、寮内の動ける生徒達は至急、校庭に集まって下さい。
動けない学生はその場で救助を待つように。
繰り返します___』
リーダーが情報提供し終わらないタイミングで、校内にアナウンスが響く。
遠隔操作で声を響かせる魔法具を使った、恐らくこの聞き覚えのある声は2年の学年主任のものだ。
続くアナウンスを聞きながら、ふと王子が索敵魔法を繰り出したのに気づいた。
相変わらず広範囲の索敵だ。
魔力量だけでなく、魔法のコントロール能力も高いという事がうかがい知れる。
「どうやら半透明の何かは男子寮の方に集まっているようだ。
生物というよりも、純粋な魔力が動いている感じだな。
校内の学生は校庭に避難しつつあるが、倒れた者達はそのまま……ああ、寮生達も動き始めた」
それだけ言うと王子は俺達に向き直る。
「君達3人はここから出て校庭に向かえ」
「王子はどうするつもりです?
というか、絶対男子寮の方に行くつもりでしょう?
私も行きます」
王子の答えは聞かなくともわかっているから先に宣言する。
本来なら止めるべきだが、彼が赴任している理由は全学年主任としてだけではないのも知っている。
保険医として極秘に潜入調査していたのも、学園内で不穏な何かしらの影とやらを探していたかららしい。
国王や宰相と話し合って今も現在進行形で調査しているようだが、俺はもちろん蠱毒の箱庭の時同様に今も教えられていない。
王子の側近ではないからだ。
それに今はそこに踏みこむ余裕もない。
「1人で……」
「王族が何を言っているんです。
どんな危険があるのかわからないのに駄目に決まっているでしょう。
どうしてもと言うなら、むしろ私が1人で調べてきますが?」
「それならミハイルは学……」
「学生である前に四公ロブール家の次期当主で、貴方は第1王子殿下です」
とはいえ俺の立場で王子の言葉に、はいそうですかと従えるはずもない。
王子の言葉を遮っていき、はっきりと意思表示をした。
その時だ。
「っぐ……う、ぐぁ……あがああああ!」
突然ベッドの上で暴れだしたのは赤髪のヘインズ=アッシェ。
突然の事にドミニオはビクッと跳ねて固まり、リーダー、王子は怪訝な顔でヘインズの方へ。
「ヘインズ?!」
慌てて駆け寄ったのは俺だけだった。
「あっ、がっ、はぁ、はぁ、うぐぁああああ!」
苦しみに喘ぐヘインズを鑑定すれば、重篤な魔力枯渇が判明する。
「どういう事だ?」
王子も気づいたのか、眉を顰めた。
全身にあらゆる苦痛が広がっているようで、初めは胸だけだったが、次第に腕や体全体を何かに縋るように七転八倒しながら服を掴んでは掻きむしるかのように力加減なく引っ張る。
元々騎士として鍛えているから握力が強いらしい。
薄手の服がビリッと音を立てて所々破けてしまう。
自分に身体強化魔法をかけ、のたうつヘインズが自分の体を傷つけないよう押さえつければ、リーダーもそれに加勢してくれる。
「おい!
気をしっかり持て!」
「っぐ、ひっ、ゆ、許し、公女!
あ、ああ!
しまっ、やめ、やめてぇ!
…………っぐ……ぁ……」
いきなり許しを請うたかと思えば、体を耐え難い痛みを与えられたかのようにビクンと弓なりに反らし、見開いた目が白目を剝いて気絶した。
今……誰に許しを……?
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