209.有り得ない事〜ミハイルside

「どういう事だ?」

「こいつもか……」

「「こいつ?」」


 腹ペコチームリーダーの再びの言葉に反応した俺達の言葉が重なる。


 俺は腕の中で意識のない、ぐったりとする義妹を、少し前にヘインズがされていたように抱えて元のベッドへ寝かせてやる。


 顔色が随分と悪いが……魔力が枯渇しかけているのか?


 体の状態を確認するのに鑑定魔法をかければ、明らかに魔力がいつもより少ない。


 倒れる直前の出来事を思い出しても、何故こんな事になったのかがわからない。


 あの時、制止しても止まらない魔力暴走に、仕方なく義妹の周りに魔力障壁を張ろうとした。


 既に体から魔力が漏れ出て発火の傾向が体に見られたからだ。


 まだ魔法の概念がはっきりとしていない子供や、魔力量にとてつもなく大きな開きがある、もしくは魔力干渉に特化した魔法師の中でも解呪を得意とする者ならば、暴走する者の魔力をこちらの魔力に1度馴染ませる事で暴走させずに落ち着かせる事も可能だ。


 しかしそうでない場合、今回のように魔法が可視化するまでに進んでしまえば、暴走者を魔法障壁で囲って1度完全に暴走させて落ち着かせるより他に鎮める方法はない。


 もちろんそれだと本人は自ら繰り出す魔法によって傷ついてしまう。

特に炎系統の魔法が出た時は尚さらだ。


 だから他に人がおらず、屋外ならばその場からすぐに立ち去って遠くから様子を見るなり、自分の周りに障壁を張るのも1つの手だろう。


 もちろん場所が場所、気を失って逃げられないヘインズがいるからできない手段だったのは言うまでもない。


 俺が義妹にできるのは、傷つくだろうその体にいち早く治癒魔法をかける事だけだ。


 恐らく元保険医勤務だった王子もそう思って身構えているように見えた。


 ところが、だ。


 急に暴走していた魔力が鎮まり、元から青白かった顔色が青を通り越して白くなった義妹は、そのまま膝から床に崩れ落ちた。


 床に激突する前にかろうじて頭を抱えるのは間に合った。

大した怪我に繋がらなくて何よりだったが……理由がわからない。


「先程も同じ事を言っていたな。

どういう事か教えて欲しい」

「その4年生も同じだ。

急に興奮し始めたかと思ったら魔力暴走を起こしそうになり、そうかと思ったら暴走が止まった」


 王子の言葉にリーダーがヘインズ=アッシェの当時の状況を話すが……。


「有り得ないな。

だが有り得ない事が2件続けて起こった」

「ええ。

普通はあそこまで暴走が起これば止まらない。

それに暴走が止まったのは魔力が落ち着いたからじゃない」

「気づいたか」


 王子の言葉に首を縦に振る。


「暴走して魔力を消費したわけでもないのに、体内魔力の多くを消失していますから」


 王子は最初にヘインズへ鑑定魔法を使い、リーダーに状況を聞いた時点で気づいていたのかもしれない。


「やはり何かが学園で起こっているようだな」

「やはり?」


 リーダーが訝しげに王子を見やった。


「学園が夏休みに入って暫くしてからそういった生徒が学園内で見られるようになっている。

最近は寮生の中で急に増えたんだが、気づいていなかったか?」


 そう、ここ最近学園に通い、遅くまで調査は見回りを手伝っていたのはその為だ。


 そういえば王子と共に学園で聞き取り調査を行っていたが、まだこの者には尋ねていなかったはずだ。


 数日前に夏休み中も生家には帰らず、寮で過ごす者を中心に聞き取り調査したばかりだったが。


「夏休み中は冒険者として活動している。

そもそも寮には寝に帰ってくるくらいだったから、最近の事と言われてもあまり知らない。

間近で言えば、見回り当番から帰ったのも2日前だ。

同じDクラスで冒険者登録をしている何人かも恐らくそんな感じだから、聞き漏らした者が他にもいるんじゃないか」

「そうか。

ロブール公子、今日集まる予定だった生徒会役員に予定の変更を伝えて帰らせてくれ。

学園内が危険なのかもしれない。

俺は今いる教師達と今後を話して……」

「先生、いらっしゃいますか!」


 王子の話はけたたましくも慌てたように開いたドアの音と、乱入してきた者の声に阻まれた。

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