208.実は侮れない〜ミハイルside

「どう、とは?」

「あなた身分もそうだけれど、お義姉様と同じDクラスの方よね!

礼儀を守りなさい!

その方は全学年主任としていらっしゃったこの国の第1王子殿下なのよ!」

「知っている」


 だから何だと言外に告げるように黙ってしまった。

そういえば実妹も寡黙だと言っていた。

だがこの義妹はそれも気に入らなかったらしい。


「なっ、知っていてその態度は何なの?!

それに私は公女でAクラスなのよ!

失礼よ!」

「シエナ、落ち着け」


 更に詰め寄ろうとするのを後ろから両肩を押さえて下がらせる。


 随分と感情的だ。


「いいえ、お兄様!

公女としてこの無礼者を看過できません!

今すぐ出て行きなさい!」

「それで良いならそうするが、良いのか?」

「まだ困るな」


 無表情ながらどこか面倒そうな様子で王子を見れば、当然返ってくる返答はそうなる。


「そんな!

この無礼者をお許しになりますの!」

「シエナ=ロブール。

黙りなさい。

失礼さでいえば君もそうだ」

「……え……」

「ミハイル=ロブール」


 俺を諌めるようにこちらへ振られてしまうが、これもまた当然だろう。


「申し訳ありません。

シエナ、これ以上の醜態を曝すな。

お前の身勝手にロブール公爵家を巻きこむな」

「そんな!

私はただ王子殿下の為に……」

「彼の口調は確かに失礼だが、全学年主任も私情を挟んでいた」


 レジルスよ、それとなく目を反らすな。


 思わずため息を吐けば、自分にそうしたと勘違いしたらしい義妹が反射的にこちらを振り向き、肩から手が外れた。


 ショックを受けたように目を見開いた後、今度は不服そうに顔を歪ませる。


「それに目上の者同士で話しているのを無関係のお前が何の断りもなく立ち入り、病人の現状把握を邪魔している」

「目上だなんて……」

「彼はお前にとって先輩だ。

それに身分ならまだしもDクラスは関係ない。

特に生徒会役員であり、成績による偏見を助長させていた第2王子一派として行動を共にしていたお前がそこに触れてはならない」

「そんな……言い方……酷いわ、お兄様」


 潤んだ瞳で俺を見上げるが、もうその手の庇護欲は感じない。


「送るから、もう帰れ。

それからこのままだと生徒会役員の適正から外れる事をそろそろ自覚するんだ」

「ま、待ってお兄様!

そんな……そんな事……」

「言い訳は聞かない」


 更に何か言を紡ごうとして、1度押し黙り、ゆっくりと再び口を開いた。


「後悔、しますよ」

「そうだな。

どういう結果になってもそうなる」


 このままなら生徒会役員はおろか、公女でいさせ続けるのも難しい。


 裁量は父にあるが、その父がこれからどう決定するか……。


 するとギッ、と俺を強く睨みつけ、魔力を暴走させそうな兆候を見せる。 


「シエナ、落ち着け。

そのままでは魔力暴走を引き起こす」

「こいつもか……」


 話しかけていれば、不意に対面から訝しむようの声が聞こえた。


「こいつ?」


 王子が聞き返す。


 どちらも随分と冷静だが、それはそうだ。


 もし仮に魔力暴走を引き起こしても自分1人くらいは守れる。

そこのDクラスのリーダーもそのようだ。


 蠱毒の箱庭の一件で知る事になったが、彼は冒険者としてかなり実践を積んでいる。

16才という若さで既にクラスはB。

時折評判の良いパーティーに混ざって休みの日には卒業後の冒険者としての下地は好調。


 学校での成績は実妹とほぼ同じだが、頭の回転は良い。


 そして今の2年Dクラスは大体がそんな感じの生徒ばかりだった。


 これまでと違ってクラス全員が底辺を競う事はなく、全員が学業面で平均並み。


 実技的な部分では程度の差が見られるが、学校以外での仕事の活動を調べれば、彼らの年齢的には将来有望と評される者が多い。


 義妹はDクラスを馬鹿にしているんだろうが、2年Dクラスだけは卒業後の活動に焦点を当てているかのような動きを見せていて、実は侮れない。


 だからだろう。


 平民の血を半分引いているとしても、伯父の血のおかげかその魔力はギリギリAクラスにいられるくらいには強い。


 その魔力暴走にも冷静でいられるのは。

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