206.押し問答〜ミハイルside

「お兄様は……お義姉様をあれほど嫌っておられましたわ。

なのに何故今頃になって……」

「シエナ、私がラビアンジェを嫌っていた事は……」


 レジルス第1王子との間に義妹であるシエナを挟み、食堂からそのまま保健室へと向かった俺は現在押し問答を繰り広げている。


 夏休み前、義姉に幾度も単身でからみに行こうとするシエナをその度諌めた。


 念の為同じクラスの生徒会役員に動向、特に教室から単身で出ようとした際には知らせるよう頼んでおいて良かったと心から思っている。


 そして顔色の悪いシエナを診察し終え、それとなく想い人の元に行こうとそわそわしているそこの王子。


 彼には何かと手を貸すのと引き換えに、現在王子達の婚約者候補として名を上げる社交界にも明るい令嬢達に義妹の監視を頼んでもらった。


 もちろん第2王子と元婚約者ラビアンジェの仲を引っ掻き回したシエナ=ロブールの義兄である俺が直接的に話す訳にはいかないからだ。


 だがその話を第1王子がしている間後ろに控えていた事で、俺の意図は令嬢達にも伝わっただろう。

もちろんこれはロブール家当主たる父上からも許可を得ている。


 恐らく父上は場合によっては養女として迎えた実の姪を……。


 それはともかく彼女達も思うところはあったようで、すんなり首を縦に振ってもらえた。


 特に退学し、修道院へと送られ療養という名のを過ごすペチュリム=ルーニャックの元婚約者にして、現在第3王子の婚約者候補であるララティリーネ=ダツィア侯爵令嬢。


 彼女は強い意志をその瞳に宿しているように見えた。


「いや、確かに私はあの子を疎んじていた」

「それなら……」

「だが、それは間違いだった」


 自分のしでかしてきた事に今更ながら後悔が押し寄せる。


 俺は実妹だけではなく、この義妹に対してもきっと対応を間違えた。


「何故ですか!

お義姉様は成績だって魔力だって低いのに、何でもすぐに逃げて全然公女としての務めを果たしてもいません!

なのに今更態度を変えるなんて!

そんなに血の繋がった妹は大事なの!」

「血の繋がりは関係ない。

私はお前の事もラビアンジェと同じように妹だと思っている。

ただあの子の事を何も見ずにあのような態度で接するべきでは無かった。

それが全てだ」

「どうして?!

あんな人、ロブール公爵家の恥ではありませんか!」

「シエナ」

「私は間違ってなんかいません!」


 シエナの本性を知っても、義理とはいえ妹だと思う気持ちは変わらない。

この子が我が家に養子となって訪れてから共に過ごした月日は、決して短くはない。

この子なりに四公の公女として恥じぬよう努力した事まで否定もしない。


 だからこそ、早く正してやらなければ……。


 だが肩で息をしながら、いつもなら私の前ではか弱げに涙をこぼしているはずが、むしろ睨みつけて強い口調で不満を顕にした。


 猫を被る素振りも見せないのは体調が悪いせいなのか、自分の置かれた今の立場がどれほど危ういのかを少しは理解してきているのか……。


「そこまでだ。

いつまでも押し問答をしていてもラチがあかない」


 しかしそこで全学年主任でもある王子が俺達を止めた。

軽くため息を吐き、それとなく壁掛け時計をチラリと見てから言葉を続ける。


「シエナ=ロブール。

今日の生徒会活動には参加しなくて良いから、帰りなさい」

「……いえ、でも……」

「君が義姉とあそこで揉めていたのが君の意思によるものだというのは明らかだ」

「そんな!

私はたまたま……」

「兄のミハイルからは学園で不用意に義姉のラビアンジェ=ロブールに近づかないよう通達をさせたはずだが、間違いないか?」

「……それは」

「ミハイル=ロブール、通達していないのか?」

「いえ、致しました」


 口調が教師のそれである以上、こちらも畏まり、シエナもそのピリ、とした空気に背筋を伸ばす。


「……その通りですわ。

ですが私達は義理とはいえ姉妹。

何故そのような通達を受けねばならないのですか?!」


 だが……やはり俺の思いも自分の状況もわかっていなかった。

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