204.学園からの、果物屋さん

「それじゃあ、俺はこいつを保健室に寝かせて来る」


 私に荷物を渡したラルフ君はワンコ君を……素敵ね。

お姫様抱っこしたわ。


 大柄な方だけれど、まだまだ成長期真っ只中のラルフ君の方が成長期終盤のワンコ君より少し小ぢんまりしているから、体格差が……BとLな妄想を刺激するわ。


 厳つい年下少年に抱えられる傷心風ワンコ騎士崩れ……何だか無駄に滾る絵面ね。


 ああ……早く私の小説を2次元の世界で具現化してくれる絵師様を見つけたいわ。


「ええ、お願いね」


 なんて妄想していても私のお顔は微笑んでいるのよ。


 ついでに小さくなった荷物は再び行商人スタイルにして、しれっと重力操作しておくわ。


 ちなみに学園は授業こそしていないけど、一部の生徒の為に当番制の教師陣によって開かれているの。


 図書室や音楽室、美術室も教師にお願いすれば鍵を貸してくれるから使いたい放題。


 でも保険医に扮していた第1王子の後任は王都の治療院からの派遣保険医さんで、今は3人での当番制。

どうやらこっちが本来の保健室スタイルだったみたいなのだけれど、夏休み中は治療院に重きを置いているから、学園の保健室にいない事も多いんですって。


「夏休み中だから、もし保険医さんがいなかったら全学年主任にお願いするといいわ。

私がそう言っていたと伝えて。

私も外で用を済ませて、時間があるようなら様子を見に来るわね」

「……そうか」


 あらあら、何だか不服そう?

突然の任せっ放しは良く無かったかしら?


「時間がなくても来るよう……」

「無ければ来なくていい。

そもそも公女がこいつを気にかける必要もないから、あっても来なくていい」


 何だかかぶせ気味に遮られたわ。


 そうね、ラルフ君は仲間思いの良い子だもの。

同級生でグループの1人でもある私が、元婚約者のお供をしていたワンコ君にからまれていたのは当然知っていて、眉を顰めてしまうのも仕方ないわ。


「私もワン……その人を気にかける必要は全く無いとしか思っていないのよ。

けれどこれで何かあったら、寝覚めが悪くなりそうな気がしないでもないような気がしなくもなくはないもの」

「……っふ、どっちだ」


 ふふふ、笑われてしまったわ。


 でもそうやって笑うと強面さんも年相応の可愛らしい男の子ね。


 何だか昔から私を心配しては何かとお世話を焼いてくれる、子供好きな厳ついオジサンに似て将来お顔で損をしそう。


 ラルフ君がユストさんのように、幼い孤児にお菓子をあげようとして泣かれた事は無かったから、杞憂でしょうけれど。


「どちらかしらね?

とりあえず、もう行くわ。

またね、ラルフ君」

「ああ、また」


 そうして時々来校している学生に2度見されながら行商人スタイルで学園を出て行くわ。


 その少し手前からは索敵を展開して人目がまばらなのを確認しつつ、幻覚魔法で存在を薄くしていくの。

私が見える範囲で通りに人が完全にいなくなったのを確認して魔法で転移すれば、もう王都の裏通りよ。


 滅多に誰も通らない、寂れたこの細い裏通りは昔からの転移スポットなの。

忘れた頃に誰かいるのだけれど、幻覚魔法か例のローブで周囲にわからないようにしているから、いても気づかれないわ。


 幻覚魔法なら人通りのある道に近づきながらゆっくりと解いていくし、ローブなら必要に応じて声をかけて認識してもらうの。


 でも今の時期にローブは少し暑いのが難点ね。

もちろん着るなら魔法で中の温度を下げるけれど。


「よお、

数日ぶりだが、なかなか面白い格好で登場したな」

「なんでえ、ラビじゃねえか!

美味い果物いるか?」

「トムおじさん、いただくわ!

代わりにこれ、食べてちょうだい。

お肉よ。

包みは再利用可能だから、洗って使って。

詳しい事は後でユストさんに聞いてちょうだい」

「お、いいねえ。

ラビは時々便利グッズをくれるからありがてえな!

奥の従業員用の控え室使いな!」

「ありがとう」

「行くか」


 お店の前で待ち構えていたのは厳ついオジサンとトムさんよ。


 トムさんは昔から時々熟れすぎになりつつある果物をくれる、果物屋さんの店主さんなの。


 お礼を言って荷物から取り出したラップ包みを1つ渡して、促すユストさんと奥へ向かう。


 トムさんのは塩釜焼きだったわ。

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