202.もう許してくれ〜ヘインズside
『お義姉様が運良く蠱毒の箱庭から出られたのはたまたまなのに酷いでしょう、ヘイン?
お願い、シュア様とずっと連絡が取れないの。
もしかしたらお義姉様が婚約者だからって何かしたのかもしれない!』
『ぅぐっ、違、う。
シュア、は……公女を助けようと……っぐ、庭に。
怪我、だ』
『そんな、どうして?!
シュア様まで助けに?!
でもお義姉様が悪いのよ。
自分の力で出られもしないのに人を頼るなんて。
シュア様が心配で夜も寝られないわ。
お義姉様はまるで稀代の悪女ベルジャンヌのように形だけの婚約者の座に執着しているの。
お兄様もシュア様も騙されているのかもしれない。
ねえ、一緒にお見舞いに行って。
お願い、ヘイン』
『……っ、無理、だ。
もう愛称で、呼ぶ、な』
『え……酷い!
あ、待って、ヘイン!
ヘイン!』
話している最中、激痛でのたうつのを耐えるのに精一杯だったのは言うまでもない。
そしてそんな俺を心配もせずにいるシエナに構う気力も失せ、引き止める彼女を無視して部屋に戻り、そのまま……。
「はっ……くそ、また……眠っていたのか」
夜中に影に怯えて分厚い布団を被って情けなくも震えていた事を思い出す。
窓から差し込む明るい日差しにほっとした。
そして右肩に違和感を覚えて肩を抑えてうつむく。
そういえばシエナを振り切って部屋に戻った後、こんな風にベッドの上でのたうちながら堪えたな。
『
頑張ってお口を閉じておくか、本来の私の魔力を上回って跳ね返す事ね』
あの時、銀髪の冷たい印象を与える少女の言葉と姿を思い出させるように、右肩が熱くなった。
恐らく誓約が発動している間、あの白いリコリスの紋が肩に浮かび上がっていたに違いない。
朝日に照らされながら見せつけたあの少女の姿は恐らく……ベルジャンヌ=イェビナ=ロベニア。
稀代の悪女と呼ばれ、この学園の在学中に悪魔を呼び出そうとして時の王太子に討ち取られた王女だ。
ただ彼女の存在した証は限りなく消され、絵姿すらも出回っておらず、実際の姿は知らなかった。
この激痛から逃れるには、何かの事実と王家と生家の罪を明らかに……いや、違う。
明らかにするのは何かの事実だけだ。
罪は知るだけで良いのか……。
だが……。
「助けてくれ……俺が悪いのはわかったから……もう……許して……」
再び丸くなって汗だくになりながら震える。
もうそんな気力が湧かない。
それ程にあの激痛はことあるごとに俺を襲って心身を蝕んでいった。
第1王子が赴任してきて初めの内は生徒会役員も目の敵にされてはいなかった。
第2王子の側近を愚かにも自負していた俺は事情など知る由もない学生達に王子不在の理由を問われ、その度に激痛に襲われた事で人と距離を置くようになった。
そして第1王子が赴任した。
俺達の知らない所で出回っていた例のリストとやらに名のある同級生達は、俺に第2王子へ取り次ぎして何とかして欲しいと詰め寄ってくるようになった。
恐らく示談が成立せず、卒業後の進路が危ぶまれる者達だ。
黙っているとお前のせいだと、お前が第2王子を諌めもせず、共にロブール公女にきつく当たって貶めていたからだと責められるようになり、やがて最低限の登校しかしなくなった。
正直、今は学園の夏休みに入ってほっとしている。
そろそろ寮生達が戻り始める頃だが、それでも今はまだ誰かと顔を合わせる事もほとんどない。
『『お前のせいだ!
人殺し!』』
ああ、まただ……。
あの金髪碧眼の同級生2人への罪悪感が膨らみ、最近では現実には無かった言葉も夢と妄想の中で吐かれる。
「助けてくれ……お願いだ……許して……ロブール公女……もう許してくれ……」
とにかくこの激痛からも、罪悪感からも解放して欲しい。
家も、騎士の道も、人からの信用も全てを失った。
己が信じた主と恋した少女に裏切られた。
全てが俺の身から出た錆だとわかっていても、もういいだろう、許してくれよとクズな事を考えては、嫌気がさす。
コンコン。
「ヘインズ先輩」
不意に部屋がノックされ、返事も待たずに鍵をかけていたはずのドアがガチャリと開いた。
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