200.兎熊料理のお披露目

「兎熊?!

俺はちょっとご遠慮……」


 ラップに盛り上がる2人を横目にそろそろと立ち上がったと思えば、兎熊のお肉に尻ごみしたみたい。


 でも……。


「待ちな、見習い!

ラビちゃんの手料理から逃げるなんて気がしれないね!

何様だい!」

「勘弁して下さいよ〜。

臭いし、筋硬いし、苦手なんすから〜」


 マリーちゃんがガシッと見習い君の肩を掴んだわ。


 まあまあ、無料配布なのだから、貰ってくれても良いのに。


 でも無料でも貰いたくないのが兎熊のお肉なのよね。


 ただこのお肉はワサ・ビーとハーブ効果に加えて、ラグちゃんの尻尾ペシペシ効果が付与されているもの。


 柔らかくて臭みもないのよ。


「最初にお肉を叩いて臭み消しと一緒に蒸してあるの。

これは煮込みだけれど、灰汁あくもしっかり取っているわ。

濃いめに味を付けているから、お湯を注ぐだけでスープに変身。

炒めたり蒸したお野菜を入れてもいいわ。

蒸したお芋をマッシュしながら混ぜてパンに挟んでも美味しいし、フォークで簡単にほぐれるからお手軽リメイク料理にピッタリよ」


 イメージは味噌玉だけど、味はビーフシチュー風味で見た目は少し黒っぽいかしら。

じっくりコトコト丸1日煮込んでいるから、筋のコラーゲンがいくらか溶けてプルプルのゼラチン状になっているの。

お陰で冷えると固まってラップで包みやすいわ。


「こちらはハーブソルトの包み焼きと、燻製にしたものよ。

スライスしてあるから、陰干ししてジャーキー風にするなら1ヶ月、このままでも冷所で1週間は日持ちするわ。

食べる時に炙ると美味しいの」


 ラップに包んだキャベツ玉くらいの塊3種類を説明も交えつつ、全員の前に並べる。


「このラップ、吸着しているのにちゃんと剥がれるな。

それに……美味い」


 包み焼きのラップを剥がし開いて、一切れパクッと食べるラルフ君。


 厳ついお顔もほころんだからか、他の2人も残りの種類それぞれを開いて、パクリ。


「嘘だ……風味は確かに兎熊なのに普通に美味い。

しかも筋が口のなかでほぐれる……」

「これ、確かにスープにもできるくらい濃いめの味つけだけど、きつめの酒のさかなにも良いね」


 呆然と呟く見習い君に、嬉々とする実家は飲み屋さんで酒豪のマリーちゃん。


「ね、臭みもなくて柔らかいでしょう?

基本的にはお皿なんかに被せる使い方をオススメするけれど、何かを包む時には包んだ後に生活魔法で数秒温風を当ててやるとより安全よ。

熱で少し吸着力が上がるの。

切る力には弱いから、先の尖った物や刃物は包まないで。

あくまで食品用のラップよ。

30回くらいなら洗って再使用可能だけど、それ以降は試した事がないの。

耐久性がどこまであるのかも教えてくれるかしら?

それからこれ」


 折り畳んだ座布団サイズのラップをそっとマリーちゃんの前へ出す。

横に避けていたの。


「マリーちゃんのお家で使うお仕事用の大鍋に蓋できるくらいのサイズ。

蓋の代わりになるし、大きすぎるなら切って使ってもいいわ」

「こりゃあいい!

鍋の蓋って意外に便利でフライパンに被せたりする時もあったんだよ!

うちの両親も喜ぶよ!」

「お2人にもまた顔を出すと伝えておいて」

「もちろんさ!」


 快くマリーちゃんが頷いてくれた。


「おーい、見習い!

お前、下準備がまだじゃねえか!

そろそろ寮生もこっち戻ってきつつあって人数増えてるって言っといただろう!

悪い、マリーさん!

昼の準備手伝ってくれ!」

「やばいっす!

忘れてた!

公女様、逃げようとして申し訳なかったっす!

美味しい物くれてありがとうございます!

それじゃ、お気をつけて!」

「仕方ないねえ。

ごめん、ラビちゃん」

「いいの。

こちらこそ怒ってくれて嬉しかったわ。

2人共、お仕事頑張って」


 2人して急いで塊ラップを抱えてバタバタ行ってしまったわ。


「残りは誰かに渡すのか?」


 再び風呂敷で包み直していたから、残りの行く末が気になったのね。


 荷物は3分の1減といったところかしら。


「ええ。

ガルフィさんとユストさんの所に持って行くの」

「ユスト?」

「リュンヌォンブル商会の会長さんよ。

卒業研究で何度か会った事があるでしょう?」

「ああ。

持とう」

「助かるわ」


 再び行商スタイルになろうとしたところで、ラルフ君が抱えてくれたわ。


 そのまま食堂を出て行く。


 王子は間に合わなかったみたいね。

良かったわ。


 でもこの後別の人に捕まってしまったの。

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