199.主に性格的な部分のみ
「これは……重かっただろう」
「そうでも無かったわ」
間一髪で魔法を解除したから、すぐそこのテーブルに置いてくれた荷物は本来の重さに戻ったの。
危なかったわ……。
「じゃ、じゃあ俺はこれで〜」
「待って!」
どうしてか緊張の窺えるお顔で後ずさりしたかと思ったら、くるりと回れ右して厨房の方へ行こうとする見習い君。
思わず彼のエプロンの腰紐を両手で掴んでしまったわ。
「ひぃ!
お気になさらず〜
死にたくないっすよ〜」
「まあまあ、死なないわ?
多分」
「多分?!」
「きっと?」
「きっ……」
「そんな事より」
「そんな?!」
「どうしてそんなに怯えるのかしら?
何もしていないし、しないわよ?」
「公女様じゃないっすよ〜。
放っといて下さいよ〜」
視線はしきりに私をかすめてもう少し後ろをチラチラ行ったり来たりしているわ?
私の後ろにはラルフ君しかいのだけれど、もしかして……。
「怖がらないで?
ラルフ君のお顔は少し
それに公女らしくないから、大丈夫!」
「強面とかそんなんじゃないっす!
公女らしくないってどうなんすか〜!」
エプロンの紐を掴んで離さない私をズルズル引きずって逃げようとする見習い君。
「何じゃれてんだい……」
「強面……」
2人共、私達を見ながら思い思いに呟いているだけで手伝ってくれないみたい。
「じゃあ公女らしい気が気持ちしない気がしないでもなくはないから、ちょっとお待ちになって?」
「どっちなんすか、それ〜」
「私もよくわからないけれど、そういう事なの。
あなたにもおすそ分けしたいだけ。
マリーちゃんを止めてくれてたお礼」
「お、お許……へ?
お礼?」
あら、やっと止まった。
「ええ、お礼。
あのままだとマリーちゃんが殴りこみに来そうだったじゃない?」
「ふん、当たり前だよ!
元々ラビちゃんへの風当たりが酷かった事自体、頭にきてたんだ!
なのにあの義妹が入学してから被害妄想炸裂させてはどっかのアホとバカ共引き連れてつっかかって悪女呼ばわりだ!」
アホは元婚約者で、バカ共は赤髪ワンコ君みたいな側近候補だった人達の事かしらね?
そういえば、あのワンコ君はどうしているのかしら?
すっかり忘れていたわ。
「食堂の皆はラビちゃん発案のメニュー出してたり、時々おすそ分けしてくれてたから踊らされたりしなかったけどね!
ラビちゃんが止めてなきゃ今頃伝家の宝刀で腐った性根を叩き直してやってたよ!」
「……宝刀……」
「ひぃ〜」
ラルフ君はボソリと呟き、やっとこちらに向き直った見習い君は小さく両手で自分を抱きしめて悲鳴を上げる。
どちらもそれとなく内股になったわ。
「愛されてて嬉しいわ、マリーちゃん。
でも学園内は許可のない危険物の持ちこみを禁じているの。
これからも封印しておいて。
マリーちゃんの皆勤賞、
「ラビちゃん……本当に、こんなに良い子が何で稀代の悪女呼ばわりされたんだか……ベルジャンヌと一緒にしないで欲しいもんだ」
あらあら、一緒なのだけれど……好きな人からそれを言われるのは前々世とはいえ地味に突き刺さるわ。
「気にするな」
「え?」
何に対して?
「それに公女への誤解は少しずつ改まっている。
……主に性格的な部分のみだが」
「ああ、そちらね
そうね、それで十分よ」
タイミングが良すぎてベルジャンヌだったのを知っているのかと勘違いしそうになったわ。
そんな事あるはずもないのに。
もちろんラルフ君に同意ね。
シエナを虐待してるとか言うのは誤解だけれど、それ以外は真実そのものだわ。
成績はDクラスの真ん中どころで、貴族の義務からは常々逃走している……紛れもない事実ね。
「さあさ、気を取り直して、まず座りましょう。
ラビアンジェお手製の兎熊を使ったお肉料理よ」
そう言って、囲んだテーブルの上の風呂敷包みを開ければ、小分けしてラップで包んだアレコレが出てくる。
「例のラップとやらで包んでんだね」
「そうなの。
このまま魔法で温めても食べられるから、野営でも便利でしょう」
「ああ、いいな」
興味津々のマリーちゃんと、言葉少なく頷くラルフ君。
そして……まあまあ?
見習い君がそっと立ち上がったわ?
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