198.憎まれからの愛され
「その荷物を持っていくのか?
もしかして中身は……しかし重そうなのに軽そうだな」
うちの兄が鋭い……。
けれどもちろん私のお顔は淑女の微笑みを浮かべてポーカーフェイスを決めこむわ。
「必要な分だけ持ってきましたから。
中身は恐らくそれですけど、重さはそれほどでもありませんわ。
本日は生徒会活動ですの?」
嘘よ。
パンパンに中身が詰まっているわ。
「ああ、再来週には夏休みが明けるからな。
まだ時間には少し余裕があるのだが、私のそれは……」
くっ、うちの兄がぬかりない……。
「取り置きしておりましてよ。
明日の朝ご飯にいかがかしら?」
「ああ、それならそちらに行こう」
「ご用意しておきますわ。
それでは、マリーちゃんを待たせておりますの」
物欲しそうにしなくとも手伝ってもらったから、ちゃんと用意しているのよ。
「そうか。
シエナ、これ以上ここで醜態を晒すのはお前も望まないな」
義妹に厳しい目を向けるお兄様。
そんなシエナは、あの睨みつけたお顔を私以外に見られていたのがよっぽどショックだったのね。
元々良くなかった顔色を白くして、うつむいて唇を噛んでいたの。
仕方ないわ。
これまで表向きは喜怒哀楽のうち、怒りのお顔は見せないように努めていたんだもの。
きっと健気で優しいヒロイン的イメージを周りに与えたかったんじゃないかしら。
中身はのし上がり根性が逞しい野生児だと思うのだけれど……。
でも私に向ける感情は、年々怒りから憎しみに変わっているように感じるわ。
何かした覚えはないのだけれど、前々世といい、今世といい、この世界では身内の女性からつくづく恨まれる仕様なのね。
「醜態……そんな……」
反応するのはそこみたい。
自分がどう見られているのかに固執するシエナらしいわ。
やっぱり叱っても無意味だったんじゃないかしら?
「ああ、醜態だ。
そろそろ自覚しなさい。
行こう」
「……わかりましたわ」
すれ違いざまに私をしっかりと睨みつけるのを忘れないのも、この子らしいわね。
もちろん淑女らしく微笑んで見送るわ。
3人が背を向けてすぐ、私も踵を返して食堂に直行よ。
「心配かけてごめんなさいね。
お待たせしたわ」
「良かった、ラビちゃん!
自分から壁にぶつかっといて何なんだい、あの義妹は!」
まあまあ、怒りが再燃しているわ。
「落ち着いて下さいよぉ~。
相手は仮にも王家と四公なんすから〜」
見習い君は半泣きね。
ご苦労さま。
でもこれが平民なら誰しもが取る普通の反応なのに、マリーちゃんてば……。
「愛されてるのね、私」
ほぅ、と頬に手を添えて息を吐く。
今世はオカン体質の人には愛されるみたいで嬉しいわ。
でも言葉があからさま過ぎたかしら?
見習い君の方が照れたのか、赤くなってしまったの。
「当たり前だよ!
ラビちゃんがこ〜んな小さい時から知ってんだ!
うちの娘も同然だよ!」
「マリーさん、そりゃ小さすぎっす〜」
そうね、親指と人差し指が懐かしの視力検査でよく見たCになっているわ。
太もも丈くらいはなかったかしら?
「物の例えだよ、細かい見習いだね!
ラビちゃんが色っぽ可愛いからって、赤くしてんじゃないよ!」
「そりゃないっすよ〜」
そう言って、見習い君の背中をバシバシ叩くマリーちゃん。
なんだか漫才しているみたいで微笑ましくて、クスクス笑っちゃうわ。
2人は良いコンビになりそうね。
「随分と朝から盛り上がっているな。
そちらは随分と顔を赤らめているが?」
あらあら。
本日の私の目的のもう1人の渋いお声が背後から。
見習い君もびっくりしたのか、増していったお顔の赤味が瞬時に戻ったわ。
ちょっぴり面白い。
「おはよう、ラルフ君。
時間ぴったりね」
「おはよう、公女。
途中で公女の兄や義妹とすれ違ったが、何も無かったか?」
こちら方向から来る人は、8割方食堂に用があった人だもの。
これまでを考えれば、クラスメイトでグループの一員でもある私を優しい彼が心配するのは最もね。
「もちろん。
「……そうか。
持とう」
沈行商スタイルで担いでいた荷物を輪投げの輪っかを取るようにして、さっと持ってくれたの。
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