170.逃げに関してだけは猛者レベル〜シエナside

『この学園で各学年のDクラスへの差別意識があまりに酷くなっていた事は、少し前に第1王子殿下が全校集会で指摘するよりも前にお気づきでしたかしら?

貴女が入学してからは、いえ、入学する少し前に起きたあの中庭での一件からは特にその傾向が強くなりましたのよ』

『……まるで私が関わっているかのように仰るのね。

傷つきますわ』


 涙ぐみながらそっとハンカチを取り出して目元を押さえる。


 そんなのこじつけよ!

私のせいなはずがないじゃない!


 もしそうなら、それは王子であるシュア様の責任ね。

私は何も悪くないわ。


 あの中庭の事だって、Dクラスのこれまでになかった補助金の予算増額についてシュア様が愚痴をこぼされたのが始まりだもの。


 私はただ、ロブール家の力をもってすれば学園にかけ合って補助金を増額させる事もできるんじゃないかって、思いついた事を口にしただけ。


『貴女は以前にもあの方の教室で、まるで流行りの小説にある悲劇のヒロインのような事を叫んでらしたみたいね。

被害妄想が酷くて心配になるわ』

『そんなに私を傷つけ……』

『嘘泣きや浅はかな媚に騙されるのは本質を見抜けない殿方と、同じように誰かしらに媚を売りたいご令嬢くらいだと、いい加減気づきなさいな』


 また言葉を遮られたけど、今度はおっとりとした口調は消え、不愉快そうに強めの口調でピシャリと言い捨てられる。


 後ろの2人の眼差しも一気に冷たくなったわ。


『貴女の媚の売り方は下品で不愉快ね』

『いい加減、失礼が過ぎるのではなくて……』


 ため息混じりのあまりの言い方に、自然と声が一段低くなってしまったのは仕方と思うの。


『話を戻しますけれど、その上あの合同討伐訓練の事故』

『話を聞き……』


 私の話を歯牙にもかけず、無視して話すその態度に思わず素が出そうになる。


『今のところは、事故扱いで合ってますわよね?』

『『はい、今はまだ』』


 けれどわざとらしく後ろの2人に問いかける次の言葉に、悔しいけれど口をつぐんで奥歯をギリ、と食いしばる。


『それまでもあの方がいた事であのクラスには度々第2王子殿下が分をわきまえもしていない、自称次期婚約者や側近と豪語する側近候補を共に引き連れ、あの方を怒鳴り散らしてらしたのは身に覚えがおありよね?』


 口調はおっとりに戻ったけれど、内容は辛辣。

でも確かにその通りだったわ。

私はともかく、彼らが側近じゃなかったなんて。

こちらの方こそ騙されたようなものよ。


 なのに私を責めようと言うの?

そんなの間違ってるわ。


『身分制度の上位の家柄の貴女達が、四大公爵家の公女に暴言を吐き続けたせいで、成績上位のクラスでは一部の生徒が愚かにも便乗して傲慢な暴挙に出たのよ?』

『それはその方達の責任ではございませんこと?

何でも私達の責任にされては困りますわ』


 素気なく答えれば……ちょっと!

どうしてそんな目でみられなきゃいけないの?!


『呆れた……それが養女とはいえ、四大公爵家の公女だと自ら公言する方の言葉ですの?

貴女方は身分制度のトップに君臨し、今なお権威も権力も握る家柄の子息令嬢でしてよ。

貴女方の言動は他の貴族にも当然影響を与えるからこそ、模範となるよう心がけるべきだとロブール公爵家では教えてらっしゃらないのかしら?』

『それは……ですがそれならお義姉様を擁護されるのもおかしくありませんこと?

お義姉様はあらゆる責任や教育から常に逃げておりますもの』

『貴女……あの方のそれをむしろ真似できるとでもお思いですの?

そもそもがあの方の徹底した逃げ癖は反面教師にする以外に並の貴族では模範にする事すら根本的に困難ですわ。

それに1度でもわたくしがそこを擁護しまして?

流石にそれはありえませんわ』


 くっ、確かにそうね!

そんな信じられない何かを見るような目で見ないでちょうだい!

そこは私も認めるわよ!


 あのお兄様の教養の強要からも、王家の再三の登城と王子妃教育の打診からもまともに逃げきったアイツは逃げに関してだけは猛者レベル。

ある意味才能、いいえ、意味がわからないけど一種の信念のような気迫さえ感じる事もあるわ。

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