164.マリモと母の殺意〜ミハイルside
「黒マリモちゃんとか言われてよちよち歩きで追いかけられた。
当然誰も近寄らない離れだから止める者もいない。
魔法呪のせいで外見は脚の短い黒毛玉になって目も潰れていて、まともに歩く事もままならなかったからすぐに追いつかれて、転んだ。
捕まったと思えば背中によじ登られて敷き布団にされるし、散々だった」
「……そもそもマリモって何だ?」
「さあ?」
「今さらだが妹が申し訳なかった」
よちよちの妹は可愛らしかったと記憶しているが、やってる事が小さな害獣だ。
「だが元々の魔力が低すぎたのと、その頃から既に魔力枯渇の耐性が異様に高かったからだろう。
魔力を強制的に消費しながら入りこもうとする魔法呪の伝染力と、すぐに魔力が消費されて入りこむ前に霧散する2つの相反する力の競り合いに余裕で勝利して、なおかつケロッとしていた。
倒れた俺の背中を陣取って居眠りしている間に俺の中に留まっていた呪いも全て移っていったが、何の異常もなく霧散していった。
その後完全に解呪されて元の体に戻る痛みと、反動で俺が魔力枯渇に陥ってのたうってる真横で、よちよち歩き回るし、時々乗っかってまた寝るし、離れの周りに張っていた結界魔法の異常を感知して魔法師団の副師団長を引き連れて駆けつけた師団長に抱っこをせがんでそのまま熟睡し始めるし、やりたい放題だったな。
潰れていた目は師団長が後日治癒させた」
「……うちの妹には一般常識も魔力や魔法の常識も通用しないのか……」
何か色々衝撃的だ。
何から考えればいいか、もうわからない。
「まだよちよち歩きの頃だから、無理もない。
魔力が低過ぎるのが一周回ってどんな魔法師よりも華麗に解呪するとか、何の冗談かと思ったな。
まあ魔法呪のタイプにもよるんだろうが。
箝口令を敷かれていたし、居合わせたのがちょうど魔法師団のトップ2人だけだったからな。
ラビアンジェの解呪を知る者は俺達3人と国王陛下しか知らない。
知っても誰も信じないし、真似できないだろう」
どこか遠い目で語ってくれたが、何年にも渡って苦しめた魔法呪が幼児の昼寝で解呪されたんだ。
納得いかない部分もあったんじゃないだろうか。
というか、枯渇でのたうつ王子の上によじ登るな、寝るな。
幼児でも公女でなければ不敬罪で罰せられてたぞ。
「父上は何と言ってたんだ?」
「何も言わずに副師団長に娘を押しつけて俺に魔力を注いで魔力枯渇の症状を抑えたら、1人で城に帰った。
師団長の父性はその頃から死んでるな」
「……そうか」
最近閑散としてきている頭髪が悩みだと言う副師団長の頭がふさふさだった頃、あの母と出かけた妹を彼が連れて帰ってくれたのは覚えている。
あの頃には既に幼心にも母上の妹への接し方に危機感を覚えていたし、1度も母娘2人で出かけた事がなかったんだ。
子供心に不安になったせいか、その事は特に記憶に残っている。
その後も
母上が俺達に愛情を持たないのは別に良い。
だが何故娘にだけ殺意を向けるのか……。
妹が不憫で、今度こそ守ろうと心に誓う。
きっと妹はまだ俺を信用はしていない。
当然だ。
長らく義妹のシエナばかりを優先してきたんだ。
それに妹自身も今さら期待はしていないとはっきり口にした。
それでも、俺はラビアンジェの兄でいたい。
ドアをノックしたが、返事はなく、しかし軽く触れると開いた。
「ラビアンジェ?」
声をかけながら入れば、先程まで俺達のいたテーブルに突っ伏して寝ていた。
何かを書いていたのか、ペンを握り、紙束を枕にしている。
汚してはいけないからと手からそっとペンを抜き取り、抱えてそこのソファに寝かせる。
そしてふと気になって、何となく紙束に目をやり……その内容に固まった。
思わず腰かけて紙束を手に取り、カサ、カサ、と捲った。
テーブルの隅に置かれた他の2束も確認する。
「……お兄様?」
しばらくの間、うっかり読みふけっていた俺は、妹の声に我に返った。
妹の方へギギギギ、と頭と体を向けた。
体中の関節の滑りが悪くなった気がする。
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