158.SSS定食と嫌な予感
「その資料、原本は既に誰が持っているのかわかりませんの。
つまり複製だらけ。
そして誰がその資料を作ったのか特定する事は困難でしたでしょう?」
何をどうしたって卒業生達の責任問題になど今さらできないわ。
それに仮に孫が卒業して私にお鉢が回ってくる頃には、足取りのつかめない卒業生もいるでしょうしね。
何せDクラスの卒業後は冒険者や兵士のような、危険と隣り合わせの職業につく人が多いもの。
「でも私がその手の事を解決できると思いまして?
ここ数年で増長はしましたけれど、これまでの王族も見逃してきた根深いお話ですのに?」
困ったような顔を作って王子を見つめれば、これまでの王族の1人である美青年が諦めたように嘆息を漏らしたわ。
お兄様も露骨に顔を
「それならいっそ、嫌でも他のどなたかが対処しなければならない状況を作って丸投げしてしまう方が、とっても有意義な対処になりますでしょう?
だってほら、私達は無事でしたけれど、
そうなる前に対処した方が加害者の方にも傷は浅くて済みますでしょう?
幸いと言うべきか、残念と言うべきなのか、その資料の複製はもう根絶やしになどできませんわ。
今のところ表に出回っていないのは、ひとえに
「待て、まさか2年生以外にも?!」
お兄様ったら、そんなに驚く事かしら?
「Dクラスの卒業後の主な職業は、労働階級層の何かが大半。
彼らの仲間意識は王族や高位貴族よりも強固で義理堅いものでしてよ?
何も無いうちはそうでもありませんけれど、身内や仲間に何かあった時の団結力は……ご存知では?
何かしらの大きな事故が起こる前に、もしくは問題を丸投げして逃げてしまう無才無能な無責任公女に任せるなんて恐ろしい事になる前に、王家や四公の威信をかけて既に増長した問題の鎮静化……できるとよろしいのだけれど?」
デフォルトの微笑みで畳みかけておくわ。
そう、ワンコ君の行動なんて端から期待していない理由は簡単。
四大公爵家や高位貴族なんていうありきたりのプライドなんて持ち合わせていない私が最年長になった時に、資料を学園の屋上からでもバラ撒いてしまえば、
「……そなたはやはり色々と爪を隠しているようだな」
改めて深いため息を吐いてから、王子にそう言われてしまう。
「嫌ですわ。
魔法具師科の私の爪は、いつでも短く丸く整えておりましてよ?
それで、私や他の方達の今回の欠席はどうなりまして?」
「結局そこに戻るのか」
「ふふふ、お兄様ったら。
皆勤賞には学食の幻のメニュー、Sクラス給仕オバサンと呼ばれるマリーちゃんが考案した
各学年のDクラスには狙っている学生も多いとご存知ありませんの?」
「「……何だそれは」」
どうしてか王子の声もハモッたわ。
「春休み期間中に1度いただきましたけれど、とっても美味しゅうございましたわ。
お休み中も補講者や寮生の為に食堂は開いてますから、ゆっくり味わうには狙い目ですのよ」
「「食べたのか」」
「あと2回をいつ食べようかと虎視眈々とうかがっておりますわ」
まあまあ、本当に仲良しさんね。
「それ以外に今は興味ございませんことよ」
「今回の事による療養や事情聴取での授業の欠席は出席扱いにしてある」
「それはようございましたわ」
はっきりと言い切れば、王子がやっと教えてくれたわ。
さっさと教えてくれれば良いのに、随分もったいぶるのだから。
「ところでそなたの婚約者である第2王子の事は気にならないのか?」
「全く。
皆勤賞の前には吹けば飛ぶ程度の些事でしてよ」
「……そうか」
何かしら?
気の毒な何かを思い出すようなお顔をされてしまったわ。
「お互い名ばかり婚約者と認識しております」
「はあ……今まで気にしていた俺は……」
「何がですの?」
「いや、何でもない。
そなたは俺が何故ここに来たか、本当の理由に気づいているか?
俺にとってはある意味今日の本題なのだが」
あらあら?
何だかまた嫌な予感がしてきたわ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます