157.密かに狙う皆勤賞

「もちろん我々が成績を優良なものに修める為に多くの時間を努力に費やしてきた事は事実です。

成績不良者の溜まり場と称されるDクラスの者と仲良くしたいと思わない気持ちを理解できる部分はある」


 あらあら、お兄様ったら随分な言い方ね。

その通りなのでしょうけれど。


「しかし彼らのは勉学に励める環境にない何かしらの事情を抱えている者がほとんどだ。

その者達に直接暴行を加えて良いという理由にはなりません」


 まあまあ、何だかとっても真面目に大半を強調したわ。


 それとなく教育から逃げまくってる私に釘を刺してない?

やるわね、お兄様。

敵はここにありね。


 けれど私にそんな言葉は無意味!

微笑みながら右から左へ聞き流しちゃう。


「もちろん今回の被害は転移陣の書き換えさえ無ければ起こらなかった。

検証した結果、管理不足とまでは言えないが、今後はその方法を変えるだろう。

そして公女。

そなたはこの資料を見た事はあるか?」


 そう言って差し出したのは、要注意人物リストのコピーね。


 1年生の時に、当時の卒業生が合同研究を成功させたお礼にってくれたの。


 合同討伐で同じグループになった時、危害を加える可能性が高い全在校生のリストよ。


 リストには私達が入学して初めてグループを組んだ上級生の名前もあったわね?


 あのリストに載るような、最初から悪意があってそうしたかはわからないわ。


 だって普通に当時の私達のグループは酷すぎだったもの。

そりゃ殴りたくもなるし、囮にして見捨てたくもなるわよねって納得しちゃうわ。


「どなたかから回ってきた資料だったと思いましてよ?

私達Dクラスはご存知の通り下級貴族や平民が大半。

学園は貴族社会の縮図ですもの。

一部の生徒には身分はもちろんの事、学力差からもDクラスの者を蔑む方はいらっしゃいますわ。

それは昔からある事でしたし、学園が王立でこの国に身分階級制度がある以上、無くす事はできないでしょうね」


 どこまで伝えるべきか迷うけれど、昨年の卒業生達が四大公爵家の公女であり、第2王子の婚約者でもある私に向けた物悲しいお顔を思い出してしまう。


 そうね、私にも責任はあるわ。

面倒だけれど、仕方ないのね。


「過去に大きく表面化しなかったのは在学中の王族方が生徒達をある程度管理されてらしたからでしょうね」


 一瞬王子の瞳が揺れるわ。

私が何を言おうとしているか気づいたでしょう?


「あからさまな蔑みや、まして他者に傷をつける行為の理由が身分や学力が下だからというのは、身分も学力も上位である者こそ恥ずべき事、と自らの言動で示されていたとお聞きしておりますわ」


 お兄様は少し目を伏せたわ。


 そうね、私達四公の公子公女もそれにならうべきだもの。


「けれどどうやら第1王子殿下のご卒業後からは、そうした事を恥と思わない方々が多くなった上に、行動も増長して目に見えた怪我人も出ていたようですわね。

当時の卒業生達もこのままでは私達下級生のDクラスになる程、命の危険が増すと考えて資料を作成したようでしてよ?

ほら、合同討伐では魔獣を相手にする分、当人にその気がなくても命取りになりますでしょう?」

「そうか、俺の卒業後から……」


 あらあら、美男子2人がしゅんとしてしまったわ。


 ふふふ、言いたい事は伝わったみたいね。

それならもういいわ。


「そんな事よりも、私がお休みしていた間の扱いはどうなっていますの?

密かに皆勤賞を狙っておりますのよ?」


 少し話題を変えましょう。


「そ、そんな事……皆勤賞……」


 まあまあ、どうしてかしら?

お兄様が形の良い頭を抱えてしまったわ。


「左様ですわ。

その資料が王子のお手元にあるなら、大方は調べがついてらっしゃるのでしょう?

王族が在学中は生徒の細々した管理は王族のお仕事ですもの。

揉み消すか、表面化させるかに私は関係ありませんわ。

けれど第2王子殿下が在学中にどうにかした方がよろしいのではなくて?」

「……何故だ?」


 あらあら、さっと顔色を変えた王子はともかく、お兄様はまだ私の事をわかってらっしゃらないのね?


「王族の不在の間は誰が生徒の問題を対処するとお思い?」

「……四大公爵家の公子と公女の中の最年長……」


 王子がぼそりと呟くわ。


 ふふふ、私に同級生の公子や公女はいないのよ。

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