150.お客様色々
「どうぞ」
コト、コト、と自家製の紅茶を注いだ2つのお客様用のカップを置いて、私は2人の対面に座る。
私のは自分専用カップよ。
カップはそこに座るお兄様から改修祝いと称して、義妹で従妹のシエナの割ったカップの替わりに贈られたの。
夜空に星が煌めいてる図柄よ。
あまり見ない図柄なのだけれど、探してくれたみたいね。
綺麗で気に入ったわ。
もちろんこうしてお客様用に使っているわ。
といっても使ったのは料理長さん、昔からお世話になってる使用人さん2名、オネエな王家の影のガルフィさん、そしてお兄様ね。
「ありがとう。
そなたの淹れる茶はやはり美味い。
あの箱庭で食後に飲んだ茶も美味かった」
「お褒めにあずかり光栄でしてよ、第1王子殿下」
ああ、それともう1人。
お兄様の隣に座る第1王子も、これでお客様として追加ね。
いつも通りの微笑みで対応するわ。
王子はともかく、他のお客様達は私が蠱毒の箱庭に入ったのを聞きつけて心配して来てくれたみたい。
そんな彼らにはデフォルトの微笑みなんかで接したりしないわ。
まあオネエなガルフィさんは私の状態の確認任務も兼ねていたみたいだけれど。
いつも通り天井にひょっこりしたから、お茶に誘ったの。
帰り際、ついでにお城に行かない?っていうお誘いはきっぱりお断り。
一応婚約者な孫の母妃ではなく、国王陛下からの指令だったみたい。
ガルフィさんに国王陛下直々なのよ、お願いって泣きつかれたけれど、そもそもお城に行かない約束を孫としているのだもの。
それに王家の影を使ってのお誘いなら正式な召喚命令じゃないわ。
向こうもあまり期待してなそうだったし。
かなり昔に孫からも城に来ないかって手紙で伝えてきた事はあるけれど、約束は撤回されていなかったの。
約束には喜んで従っているし、孫も母親に言われて渋々誘ってみただけよ。
国王陛下はきっと、箱庭に転移させられた当事者の1人で、呼びつけるのに差し障りなさそうな私から直接事情聴取がしたかったのだと思うわ。
それって私からすれば二度手間。
他のグループの人達と一緒にお城に行かずに学園でまた事情聴取されて、その内容は報告されるのよ?
私が行って説明する必要なんてないでしょう?
学園が信用できないならお城の役人を寄越すか、どうしても信憑性がないならいっそ直接自分が同席すればいいわってガルフィさんを通じてアドバイスしたわ。
とっても複雑そうなお顔をされたけれど、相手が国王陛下だからとはいえ、私もロブール家公女よ。
お父様を介するならまだしも、王家の影なんていう自前の手駒を介してなら、拒否権はしっかり発動できるの。
いくら学園が王立でも一枚岩ではないものね。
人を介せば情報が歪みがちになるとの考えも一理ある。
でも箱庭から出た時のいきさつなら王族の1人である第1王子が説明できるのよ。
国王陛下達が1番気になるのは結界の張り替え時でもなく、他の人達みたいに聖獣ちゃんが箱庭から出したわけでもなく、どうやって私達があの結界を抜けたかじゃないかしら?
そうそう、聴取では私達の担任、学年主任の人達のような学園側だけじゃなく、お城の役人さんも何人か同席していたのよ。
彼らの役職も自己紹介の時に聞いたけれど、忘れてしまったわ。
「今日の紅茶はいつもより甘みが強いな。
それでいて後味はすっきりしているから、飲みやすい。
蜜の風味が強いのか?」
「左様でしてよ。
食べられる花弁を同じ種類の蜜に漬けてから乾燥させたものを茶葉に混ぜて使っていますわ。
何だかお2人共お疲れのようですもの」
「そうか」
そう聞いて嬉しそうに頬を弛めるお兄様には申し訳ないけれど、嘘よ。
私がお疲れなの。
お兄様の変化球ノックを聞いてすぐに回復魔法でドーピングしたから、一時的にしゃんとしたけれど、体力ゲージは地味に削られ中よ。
睡魔カウントが始まりそう。
でもキャスちゃんの言うところのゾンビ顔からは脱却したはず。
キャスちゃんは当然のように姿を消しているけれど、カーテンをつけた自室から微かに気配がするから、ベッドの上で書き上げたばかりの小説を校正してくれていると思うわ。
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