148.暴力的な仕上がりと自己紹介〜ミハイルside

「違う。

こいつを止め……え?」


 もみ合いになりかけた俺達のすぐ横に、実妹ラビアンジェ。


 明らかに女物の色合いのローブを羽織り、それぞれの手に1つずつ大きめの鞄を持って仁王立ちした、第1王子レジルス=ロベニアのすぐ後ろからひょっこり顔をのぞかせている。


 目深に被ったフードを下からのぞけば、王子は何とも言えない気まずい表情をして2つの鞄をそっと下に置き、フードを被り直した。


 それは、まあ確かにそうかもしれない。


 首元からもう1枚茶色っぽいローブがはみ出しているし、背も高く、体つきも細身ながらがっしりしている為か、ローブがかなりビチビチだ。


 ちょっと色々と、視覚的に王子らしからぬ暴力的な仕上がりとなっている。


 転移魔法か?

しかし魔力の気配が何も感じられなかったし、今もどことなく存在感が薄い。


 よくよく視れば、ローブに何かしらの効果が付与されているのがわかった。


「やあやあ、しばらくぶりで。

突然現れて驚いたよ。

ところでそちらがミハイル君の妹ちゃんかな?

初めまして。

俺は……」


 飄々とした様子でウォートン=ニルティが妹に近づきながら声をかける。


 今は髪や顔がちょうどフードに隠れている。

第1王子だと知らしめる必要はないとの判断だろう。


 主語も敬語も抜かしてサラッと流した腹黒は、妹へ話しかけようと近づき、意識をそちらへそらす。


「うちの妹に近づくな」


 だが何となく気に入らず、妹の手を引いて王子からも腹黒からも距離を取って背に隠す。


「おやまあ、何ともつれない。

自己紹介をしていただけだぞ?」

「必要ない」

「えー」


 腹黒の言葉を受け流していれば、後ろが急に騒がしくなった。


「「公女!」」

「ロブール様!」

「んぐっ」


 この2人と距離を取ったせいで逆にチーム腹ペコ達には近づいた。

気心がしれているだろうチームの者達まで近づくのを阻止するつもりはそもそも……おい。


 何故リーダーの男が妹を抱きしめているんだ?!


 振り返れば妹はリーダーの男に前から抱きしめられ、サブリーダーと眼鏡の女生徒に斜め後ろから抱きつかれて挟まれていた。


 勢い良く突進されたからだろうか。

体の前面と、左右の背中で受け止めながら蛙が潰れたような声を出していたのは。


 今もなかなかの力で前後から締め上げられている気がしないでもない。


 後ろのウジーラ嬢も同じチームとはいえ、仮にも四公の公女への彼らの行動には驚いたようだ。


「ごほっ、あ、あらあら?」


 いつもの淑女然とした表情は無く、珍しく困惑した様子だ。


「怪我は?」


 やがてリーダーが腕を弛めてそう問えば、他の2人も少し体を離し、妹の体を確認し始める。


「していなくてよ」

「本当か?」


 リーダーも今度は華奢な二の腕に大きな手を添えて体のあちこちを目視し始める。


 先ほどまでの冷静でどこかどっしりと構えていた雰囲気が完全に霧散したな。


 が、兄としては不愉快だ。

だが妹は特に気にした様子もなく、それ故に俺も見守る。


「本当でしてよ。

それより皆の方こそ怪我はしていなくて?

寝違えたりしてないかしら?」

「寝違えて?」


 眼鏡の少女がきょとんと聞き返す。


「ふふふ、何も異常がないならいいの」


 にこにこと、自然に微笑む妹にほっと胸をなでおろす。


 特に大きな怪我もなく、恐ろしかっただろう蟲に心を傷つけられた様子も見られない。


「やあやあ、感動の再会に水を差すようで申し訳ないが、どうやってここに現れたのか教えてもらえないだろうか?」

「まあまあ、どちら様?

ご挨拶が遅れてしまいましたわね」


 完全に淑女らしい微笑みに切り替えた妹が、そっとチームの者達を後ろに押しやり、前に出る。


 リーダーもそれには素直に従うようだ。


「初めまして、公女。

俺はウォートン=ニルティ。

愚弟のエンリケとはでは兄となる」

「左様ですのね。

ラビアンジェ=ロブールですわ。

こちらのミハイルとは実妹でしてよ」


 弟のエンリケをニルティ家から放逐したと暗に示す腹黒に、俺の妹はわかったと了承の意を含めて自己紹介を返した。

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