147.チーム腹ペコリーダーと能天気な声〜ミハイルside

「君達はすぐに私と学園へ戻るんだ」

「そうしてくれたまえ。

俺は登城して状況を説明せねばなるまい。

いやはや、面倒な事になってしまったよ」


 あの箱庭での経緯を全員が座って顔を突き合わせて話した後、俺達次期当主組の決定は同じだった。


 ニルティ家の次期当主としてはかなり面倒な事になっただろうが、この腹黒は先に第1王子と示し合わせて動いていた。

その分、俺よりも詳しく説明できるだろう。


 先程までの彼らの話を頭の中で反芻する。


 やはり腹黒の元弟とその取り巻き達はここにいる者達を囮に使ったようだ。


 妹を最後に確認したのはウジーラ嬢だった。


 彼女はチーム腹ペコとは少し離れたテントでいつの間にか眠っていたらしく、ふと目を覚ますと1人だったらしい。


 すると突然どこからともなく現れた蟲達が襲い、慌ててテントから走り出てチーム腹ペコの元に向かえば、妹が火の番をしていたのを見つけ、蟲達が追いかけて来ているのを告げれば、そのすぐ後の記憶はないと言う。


 恐らくだが、人為的ならばあの3人が薬か魔法具等を使って、蟲の仕業ならば蝶型魔獣等の鱗粉あたりで強制的に眠らされたんだろう。


 恐らくは妹も……。


 無事だったのは、直前に妹が調合したという蟲避けの煙が立ちこめていたからではないかと言ったのは、チーム腹ペコのリーダーだ。


 妹お手製の蟲避けは、煙の量を調整すれば危険度Aの魔獣すらも忌避するらしいと聞いた時には驚いた。


 避けや、危険度がC級までの蟲避けなら知っているが、そんな高性能な蟲避けは聞いた事がない。


 あの暴発する短刀も含めて、妹の作る物が色々な意味で常識を上回っている。


 しかしそれならば妹が生きている可能性も無くはない。


『黙れ。

まともに魔力を持つ人はこれで全て。

あとは知らん!』


 ふとあの時の聖獣の言葉が蘇る。


 直前に妹は料理で魔法を使っていた。

魔力保持量がかなり低い妹の場合、生活魔法すらも魔力量をかなり消費させる。


 もしかして、あまりに魔力が低すぎて取りこぼされたんじゃないだろうか……。


「待って欲しい。

まだ公女が……」

「公女はどうするつもりだ」


 妹に思いを馳せていれば、俺達に異を唱えようとされてウジーラ嬢に意識を向ける。


 しかしそんな言葉を遮ったのは、チーム腹ペコのリーダーだ。

静かに、しかしどこか凄みのある無表情が堂々と問いかけた。


 この男は本当に下位貴族なのか?


 普通なら四公の、それも次期当主である俺達が揃えば萎縮するものだ。

それに彼女は俺達と家格は劣るものの、上級生でAクラス、侯爵令嬢であると同時に家系上はわが国の国王陛下の姪となる。


 その言葉を遮っても尚、平然とした面構え。


 実際、チームの他の2人は緊張した面持ちで俺達のやり取りを見守るだけで、発言は一言もしない。


 だが妹を心から心配してくれているのだけは全員から感じていて、不快ではない。


「今はもう1度入る事はできない」


 事実だけを伝えた。


 もしここに第1王子がいたなら……いや、それでも今は万全ではないはずだ。

それくらい、あの時の魔力の高まりは強いものだった。

何かしらの魔法を無理矢理使ったのは間違いない。


 もしまだ習得したばかりと聞いた転移魔法を使ったのだとすれば、彼自身も怪我を負った可能性は高い。

それくらい転移魔法は難しい。


「そうか」


 それだけ告げるとリーダーは踵を返して何処かへ、いや、あの箱庭の方へ歩いて行こうとするではないか?!


「私も付き合おう」

「私も行きます!」

「僕も!」


 ウジーラ嬢がすぐ後に続き、2年生の2人も慌てたように賛同する。


「待て!

入れば死ぬぞ!」


 思わず年齢に比べて逞しく発達した肩に手をかけて止める。


「なら公女を見捨てろと?

まだ生きているのに?」


 顔だけをこちらに向けて放ったこの男の言葉に、グッと何かがこみ上げそうになる。


 根拠はわからないが妹の生存を確信しているかのような言葉に、しかし俺は苛立つ。


「仕方ない」


 何とかそれを抑えれば、思っていた以上に声が低くなってしまった。


「相変わらず血の繋がった方の妹には冷淡だな」

「何だと」


 どこかため息混じりの言葉に頭に血がのぼるのを感じる。


 この男も肩を掴む俺の手をどかそうと掴んだ。


 その時だ。


「まあまあ、喧嘩ですの?」


 とてつもなく脳天気な声がすぐ横から聞こえた。

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