146.チーム腹ペコ達の目覚め〜ミハイルside

「「ぐっ」」


 ドサッとそこそこの衝撃に襲われて呻いたのは俺とウォートン=ニルティだ。


 気づけばチーム腹ペコとウジーラ嬢がすぐそこに転がっていたが、眠っていた彼らと違い、手荒に扱われたのは俺達2人だけだったらしい。


 あの箱庭が朝日に照らされ、微かに目視できる。

どうやらあの美しい竜の聖獣に箱庭の外へ追い出され……。


 ハッとして立ち上がる。


 倒れて眠る彼らの中に妹を確認しようとするも、やはりその姿は無かった。


 いや、レジルスもいない?!


 そういえばあの舌打ちが聞こえた直後、彼の魔力の高まりを感じた。


 何をしでかしてくれたんだ?!


「ミハイル君、まさかというか、やはりというか……あの馬鹿王子は……」

「無理矢理あの箱庭に居残ったらしい」

「……はあ、面倒な事に……」


 さすがのこの食えない腹黒も、事の重大さに苦々しそうに大きなため息を漏らす。

仮にも第1王子を馬鹿呼ばわりだが、その言葉に反論する気力は起きない。


 と、視界の端に捉えていたウジーラ嬢を含むチーム腹ペコ達が身じろぎした。


「「「「う(ん)」」」」


 事態の整理と今後の対応に頭をフル回転させながら観察していれば、思い思いに呟き、全員が一斉に目を覚ます。


 もしかして、魔法か何かで眠らされていたのか?


 すぐにガバッと飛び起き、転がる面々を確認したのはガタイの良い2年男子。


 恐らくこいつがチーム腹ペコのリーダーだ。

メンバーを確認し、近くに妹がいない事に即座に気づいたんだろう。


 更に周囲を見渡せば見下ろす俺と目が合った。


「公女は?!」

「「「?!」」」


 俺達が誰かよりも、あの妹を気にするその姿勢は兄として好感が持てる。


 俺へ投げた切羽詰まった声に、他の3人もハッとしたようにしてリーダーの視線の先にいた俺を見上げた。


「ロブール公子……ウォートン先輩も……」


 小さく呟いたのはウジーラ嬢だ。

俺だけでなく、ニルティ家の次期当主の姿に何かを察したんだろう。

仮にも国王陛下の弟である大公の娘だからか、この腹黒がいる意味は理解できたようで、すぐに眉をひそめた。


「やあやあ、ウジーラ嬢は久しぶりだな。

他は初めまして。

俺はニルティ家の次期当主だ。

残念ながらロブール公女はいない。

そしてあの箱庭でウジーラ嬢を除く元愚弟のグループと君達との間に何があったのかは大方察している」


 相変わらず飄々と語るが、弟の扱いが既にニルティ家と縁が切れた扱いになっているのに軽く引っかかる。


 名を名乗らないのは、彼らが下位貴族や平民だから。

既に学園を卒業し、四公の次期当主の立場に身を置くなら当然だろう。


「私達が君達を助けに箱庭に立ち入り、君達を確認した時には既に妹の姿は無かった。

君達は恐らく魔法で眠らされていたんだろうが、箱庭に入ってからの経緯を詳しく教えてくれ」

「そうそう、元愚弟とその取り巻き達の件も包み隠さず伝えてくれよ」


 その言葉で2年生達は本能的な警戒心を顔に出す。


 そうだった。

2年生は全員Dクラスだ。

Dクラスの卒業生達の資料や彼ら2年の担任の話から、間違いなくと釘を刺されたかのように感じたんだろうと察する。


「おや、しまった」


 それにはこの腹黒も気づいたらしく、少しばかりすまなさそうに苦笑した。


「違う、言葉そのままの意味に取ってくれ。

俺達は何が起こったのかを正確に知る必要がある。

それからこれまでの事で何かしら誤解しているだろうが、俺は妹のラビアンジェを助ける為にこの男と蠱毒の箱庭と呼ばれるあの危険地帯に入った。

だが結局見つけられていないし、妹は生きていると信じている。

君達と行動を共にしていたと思っていたが、違ったのか?」


 聖獣と第1王子の事は伏せて話す。


 事が事だ。

知る必要の無い事まで話してやるつもりもないし、下手に話せば何の権力の後ろ盾もない彼らが危険に晒される。


 魔力が低くて力にならない、悪評ばかりが先行している妹とチームを組んでくれているばかりか、こうして純粋に妹の身を心配してくれる彼らを巻きこむつもりはない。

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