136.血脈の価値と取り引き〜ミハイルside
「「「!!」」」
3人揃って大きく、有無を言わせない圧と意志を持ったかのような圧を持った魔力を感知して息をのむ。
ここに入ってから俺達は常に索敵魔法を展開している。
入ってすぐ、人らしきいくつかの魔力は1箇所に集まっていた。
残念ながら索敵魔法で感知する魔力は個々を識別できないが、人なら人、魔獣なら魔獣と漠然とした感覚でわかる。
しかしすぐにその一団に蟲らしき魔力が勢い良くぶつかり、2つに分かれる。
分かれた1つはどこかへ移動を始め、蟲のいくつかもその後を追った。
どちらを追うか一瞬迷ったが、とどまった一団の方はぶつかった蟲達の魔力がすぐに散った。
何かしらの対策をしたのだと判断し、分かれた方と合流しようと俺達も移動をした。
恐らく留まった一団が妹のいるチーム腹ペコなのだと思う。
個人的にはそちらへ向かいたいが、この箱庭に入る前、やはり取り引きとなった。
だから優先順位ははっきり決めて行動している。
俺達の実力が冒険者のAクラス相当で、何度かパーティーを組んだ事があったとしてもSクラスの実力はない。
つまり油断はできないし、1人の勝手な行動はパーティーの壊滅を生みかねない。
そもそも俺達はこんな所に侵入する選択はしていても、それぞれが己の立場は理解している。
王位継承権を持つ王子と四大公爵家の次期当主。
別にそんな俺達の存在が高貴で稀有だと自惚れている訳ではない。
ただ俺達がそれぞれ受けた教育には、国や領地の税がとことん使われている。
生活水準もかなり高く、そこにもそれが使われている。
もちろん俺達の生活水準の高さ、つまり平民達からすれば贅沢という言葉になるんだろうが、そこに後ろめたさも気後れもない。
その高さによって諸外国の王侯貴族達とも気後れなく付き合え、侮られる事なくつけ入る隙きを与えず、それが外交にも役立つ。
そこで生まれる情報を活かす事で事前に対策を行い侵略を回避し、自国に安寧をもたらす。
そして王侯貴族の水準が高ければ国内のあらゆる職人の質を上げ、金が動けば景気を循環させ、他国との貿易も回る。
しかし俺達は、特にまだ学生の俺はまだ何も国や領地に返せていない。
まさにこれから返すところなんだ。
だから実妹を助ける為とはいえ、次期当主である俺はこの2人がいなければ、どれほど後悔しても最終的にここに足を踏み入れるのを思い止まったと思う。
特にロブール家の嫡子は実妹を除けば俺だけ。
義妹のシエナは養女だ。
公女ではあるが嫡子ではない。
この国も数多の諸外国同様、身分制度があり、特に王家と四大公爵家は血脈によって魔力の高さを維持し、時に民の盾となってきた一族。
だからこそ特別な王族と四大公爵だと民にも諸外国にも認められてきた。
稀代の悪女ベルジャンヌ王女が悪魔を呼び出し自国どころか、近隣諸国も含めて危機を招いた時ですら、国民に見放されず、他国にも侵略に繋がるほど侮られなかったのはその歴史故だ。
俺の不用意な行動でロブール公爵家の血脈の価値を下げる事はできない。
だから自分が実妹を助けて無事に帰還するという欲を優先したいなら、この2人との取り引きには応じるしかない。
取り引きは3つ。
エンリケ=ニルティとの邂逅を優先させる事。
実妹の生死問わず、この一件の真相がどうであっても
箱庭にいる誰の命よりも互いの命を優先する事。
だから俺達が分かれた方を追うのは必然だった。
しかし途中から人らしき魔力が何故か増え、分かれた方の魔力は更に分かれ、増えた方の一団の魔力は消えた。
先ほどの大きな魔力を感じてからすぐに。
あれは人のようだったが、恐らく魔獣だったんだろう。
その昔、この箱庭から危険度Sクラスの魔獣が生まれた事もある。
感じたのは一瞬だったし、得体の知れないあの魔力はそういう類だったようにも思える。
というのも俺はSクラスの魔獣にお目にかかったが事がない。
魔力が消えたとすれば、恐らくは……命が途絶えた。
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