135.暴発する短刀と不穏な何かしらの影〜ミハイルside
「なるほど、確かに蟲だらけだな」
ザン!
言うが早いか、ウォートン=ニルティが飄々とした顔と着痩せする体躯に似合わない、風属性の魔法でコーティングして切れ味を相当上げた大剣を手に、左に踏みこむ。
目の前には身の丈の3倍程の高さのカマキリ型魔獣の脚。
それを節に沿って切断した。
倒れこむ巨体をすぐさま踏み台にして、身体強化と追い風を魔法で起こして空高く跳躍する。
ザン!
空中で2倍はある蚊型の魔獣を両断し、着地と同時に転がって幾本もの毒針を躱す。
大剣を槍のように投擲するのとほぼ同時に後ろにステップを踏んで、更に飛んできた毒針を軽やかに躱す。
ズン!
大剣はしっかりとコントロールされていたらしく、毛虫型の魔獣の節の間に突き刺さった。
「ウォートン」
俺の隣に立っていた同い年くらいの男が、黒
そのまま返答など待たずに結界魔法が俺達を中心にして上下左右3メートル四方のキューブ状になって展開していく。
「やあやあ、なかなかぎりぎりだったが、我ながらよく滑りこめたものだよ」
完全に囲われる前に、ウォートンが大して焦るようすもなく中に走りこんできた。
俺はその脇をかすめるすれすれを狙って、短刀を投擲する。
片脚となった状態でこの男を追いかけてきたカマキリの、硬いはずの顔面に弾かれる事もなくスッと刺さった。
ボン!
と、思ったら頭が破裂した。
…………んん?!
頭部を失った節と大きな羽根のある体は硬直したまま倒れる。
「「…………」」
その事態に俺以外の2人は押し黙る。
「……何だ、あの短刀……」
投げつけた当の俺は、予想外の事態にうっかり呟く。
「ミハイル君?
何故自分が投げた短刀で自分が驚いているんだね?」
ややもしてそんな俺に気を取り直したようにウォートンがそう尋ねるのも、まあ、頷ける。
「……鞘から出したらもしかしたら暴発するかもしれない、サクサク切れる短刀らしい」
「……何だ、その危険極まりない短刀は」
黒銀の髪の男は、父親譲りの朱色の瞳を怪訝そうに細める。
いつもの認識阻害機能を持つ伊達眼鏡を今は外し、長めの前髪を横に分けているから、端正で少し冷たげな顔立ちが顕になっている。
顔つきは一見すると両親どちらにも似ているように思う。
黒髪に混ざる王族特有の銀色は、いつもなら変身魔法を使って完全なる黒に変えているが、蠱毒の箱庭に入る以上は少しの魔力も無駄にするつもりはないらしい。
普段の保険医の姿とはかけ離れた、わが国の第1王子たる眉目秀麗な男がここにはいた。
「今朝護身用にとラビアンジェに持たされた。
中に魔法回路を描いていて、切れ味は抜群らしい。
鞘から出して10秒くらいは問題ないから、投げナイフのように使えと言われていたが……」
確かに刺さるなどと期待もせず、ただぶつけるつもりで投げた。
にも関わらずあの硬い殻にさくっと刺さったのは、魔獣の殲滅にも一役買って有り難い。
が、本当に暴発するような武器を普通渡すか?!
もしもの時はすぐに治癒魔法をかけてねと言われたが、妹は本気で言ってたのか?!
魔法回路の安全管理がガバガバすぎる!
「5秒も経ってなかったんじゃないか?
妹ちゃん、こわ……」
言うな、改めて気づいたらそんな代物をあと何本か渡されて持ってきている俺の方が怖いから。
もしかしたら、蠱毒の箱庭に入って以来の1番の危機だったんじゃ……いや、考えるのはよそう。
俺はあの後保健室で蠱毒の箱庭についてこの第1王子、レジルス=ロベニアから説明を受けた。
そこで初めて二重結界魔法の事、本来なら決して出られない事、しかし半年後に結界魔法を張り直す時にはやり方次第で出られるようになる事を聞かされた。
第1王子であるレジルスは残れと言ったが、今回の真の黒幕の影を見逃せば今後何かしら大事に発展すると感じている以上、その選択は無いらしい。
元々は在学中、この学園で不穏な何かしらの影に気づいたから国王や宰相と話し合い、卒業後は内密に学園の保険医として留まる許可を直々に得ている。
それに関する権限は正式に与えられているから必要ないと言われた。
その何かしらは側近以外には教えられないと言われてしまえば、残念だがそれ以上は踏みこめない。
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