134.お粗末なトリックの全貌と保険医の正体〜ミハイルside
「箱の内側の側面にでも貼りつけて、魔力で薄く覆っていたんだろう。
最後の1人になった時に魔力を消せばいい。
視覚を遮るわけでもなく、見えない場所の微々たる魔力なら誰かに気づかれる事もなく、残渣も1日経たずに消える」
辿り着いた答えを口にすれば、目の前の2人も頷いた。
「簡単だが失敗する可能性もあった雑なトリックだというところが、実に愚弟らしいだろう?
最後から2番目のリーダーが紙が1枚無いと言ったらどうするつもりだったのだか」
その雑なトリックを仕掛けた者の兄はやれやれと首を振る。
「全くだ。
チーム腹ペコのリーダーの名前はラルフだから、あの2年Dクラスのリーダーの中では1番最後にクジを引くのはほぼ決定していただろう。
だが欠席や遅刻があればクジの順番が前後した事も過去にはあった」
「エンリケ自身が引く分には順番が初めの方だから、問題無かっただろうがね。
ルーニャックにあらかじめ9番のクジを箱から抜かせておいて、自分は用意していたクジを隠し持っていれば、あたかも箱から引いたように演出するのは簡単だ」
ちょっと待て、保険医はチーム腹ペコの名前をさも当然のように出したぞ。
俺の読み通りのお粗末なトリックなのはわかったが、最後の飄々とした様子の解説が素通りしそうだ。
保険医まであのふざけたチーム名を知っていたのか。
しかも口にするのが些か恥ずかしいその名を自ら口にしても、全く動じていない。
「それよりも、だ。
愚弟が狙ったのはミハイル君の妹ちゃんで間違いない。
しかし愚弟程度の実力で転移陣に手を加えるのは些か無理があるのだよ」
そう言って考えを巡らすように目を細めるこの腹黒い男も、やはりそこは謎のままか。
「そもそもが転移陣自体、この学園の魔力量の多いベテラン教師が数人がかりで設置するような代物だ。
なのに人数や転移の発動回数を条件指定して、それを転移に居合わせた教師達に気づかせずに発動させた。
しかも本来の転移陣の力を阻害しないように隠し魔法陣を組みこんでおくなど、誰にでもできるものじゃない。
それもあの転移陣が設置されたのは昨日の放課後だ。
翌日の早朝までの短い時間でもしそれを可能にする者がいたとすれば、この学園では学園長か貴方くらいしかいないんじゃないか?」
じっと保険医を見つめるが、顔色1つ変えず、淡々とした様子でそうだと頷かれてしまう。
それはそうだ。
疑うべくもなく、この場の誰もがわかっている。
そんな事をすれば立場上、その2人のどちらもが大きなデメリットとして自らに返ってくる事を。
彼の本来の立場は保険医などではないのだから。
「だとしても校庭には人目もある。
犯行を行えるのは日が落ちてから深夜までの間だ。
明け方には今日の訓練の為に教師が出勤している。
しかも万が一に備えて周囲には立ち入れないよう簡易の結界魔法を張っていたが、教師が解いた時点で異常は無かったらしい。
転移陣に干渉した者は外部の者で間違いないが、どうやって干渉したのかも、その理由も不明。
そなたの弟は何者かに
保険医の言葉にシエナの顔がよぎる。
だとしてもシエナが実行犯である可能性もないという事か。
「その外部の何者かの動機の一端に妹ちゃんが関わっているかはわからない。
だが大変申し訳なくも遺憾でもあるのだが、少なくとも愚弟の動機には関わっていそうなのだよ。
そこでどうだろうか」
この腹黒いニルティ家次期当主は芝居がかった様子で手をパン、と胸の前で叩いてやっと提案してきた。
「俺はニルティ家次期当主として愚弟に会う必要がある。
ミハイル君は妹ちゃんを助けたい。
そして保険医の皮を被ったわが国の
幸運な事に我々全員が冒険者の並のAクラス以上の実力を有し、昔はパーティーを組んで危険度Aの魔獣討伐もした仲だ。
もちろん荷物は既に準備万端。
利害関係も一致して細かいすり合わせさえ上手くまとまれば、蠱毒の箱庭攻略への道も開いたと思わないかね?」
その言葉にもちろん頷くが、だから髪をかき上げて決め顔でウインクしてくるのはやめてくれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます