133.転移陣のカラクリといらぬ茶目っ気〜ミハイルside
「……い、おい、ミハイル」
保険医に肩を揺さぶられてはっとする。
「やあやあ、突然物思いにふけるとはどうしたのかな、ミハイル君?」
「いや、何でもない。
それで、話の続きを聞こう。
俺をここに呼んだ理由がまさか謝罪と説明の為とは言わないだろう」
どのみちシエナの事は今すぐに答えは出ない。
先に解決できる事を優先するべきだ。
それに今は誰かに、特にこの2人の本来の立場を考えればなおさらこんな場で不用意にその可能性を話すわけにはいかない。
「そうだな。
まずは転移陣について話そう。
もうわかっているだろうが、たまたま壊れてAD9だけが違う場所に転移したんじゃない。
起動してから9回目に限り別の場所に転移させるよう、初めから隠し魔法陣がかなり巧妙な形で仕組まれていたんだ。
それも8人が揃っての転移という補足条件付きでな」
「8人……そうか……」
「ああ。
教師達もあの転移陣で移動するが、それぞれの持ち場の関係で絶対に8人も揃って移動したりはしない。
そして生徒達のグループだけは必ず8人になる。
人数による戦力差がないように統一するからな。
滅多にないがその人数でグループを組めないか、当日欠席者が出た場合は補助に回るのがルールだ」
「つまりクジで9番を引いたグループが蠱毒の箱庭へ転移するのは必然だった、か。
故意だったと判断した理由は?」
「これは回収した4年Aクラスと2年Dクラスのクジだ。
こっそり拾ってきた」
そう言って保険医がクジを並べる。
毎年クジ引きが終われば箱は保管して中身は捨てている。
大方ゴミ箱を焼却炉に持って行かれる前にいち早く回収しておいたんだろう。
「筆跡が違う?」
他の数字は少し丸みのある文字だが、9のクジだけが違う。
「クジは生徒会役員が全クラス分を前日までに作るだろう?
見覚えがあるんじゃないか?」
「ああ。
9以外は2年の生徒会役員の字だ。
だが当日の朝、別の役員が中身を確認してそれぞれの担任に渡したはず」
「そこだ。
受け取った1人に誰だったか聞いたら、確認したのはペチュリム=ルーニャックだった」
保険医の言葉にはっとする。
次年度の生徒会長、副生徒会長は学生と教師の投票で3年生の生徒会役員の中から決まる。
生徒会役員は既存の役員がその年の終わりに候補を出し、あるいは立候補した者の中から適任者を話し合って決める。
新1年生だけは入学時の学力テストの上位者から教師が数名推薦し、次年度の生徒会長が選ぶ。
飄々としたこの次期当主の実弟も自薦で生徒会役員の候補に毎年名前はあがる。
だが毎年成績と性格的に役員には不適と判断されてきた。
トワイラ嬢も同じく自薦、同じ理由で選ばれない。
ルーニャックも毎年そうだった。
だが昨年は生徒会に入りたがらない者が増えた。
新規の生徒会役員は1年、つまり次年度の2年になる学生から多く取るのが常だが、恐らく同じ学年である第2王子の婚約者への言動から敬遠された。
何なら当時1年だった生徒会役員2名は次年度の役員を辞退したいとまで俺にこっそり申し出ていたくらいだ。
ちょうど妹がコントだと入学前の義妹や第2王子に大笑いした日の翌日だったから、多分そういう事だ。
同じ学年ともなればいくらクラスは違っていても、教室は同じフロアだ。
色々と目についたんだろう。
必然的に3年と4年から選出する役員が増えた。
自薦のルーニャックが選ばれたのもそんな理由だ。
4年生なら多少問題があっても来年度にはいなくなる。
「だが、どうやって?」
「クラス内でクジを引く者とその順番は決まっているだろう?」
今度はこの男が答えるのか?
ウインクはいらん。
頼むから大の男が俺に茶目っ気を振りまくな。
「ああ、各グループのリーダーが名前の頭文字から早い順に引いて……そうか」
「おや、気づいたかな?」
にんまりと笑うこの男はひとまず無視して、9と書かれた2つのクジを手に取り、よく確認する。
「やはり……」
1枚のクジに薄く糊の跡を見つけ、訓練で使う魔力残滓の鑑定をすれば、あと数分で完全に消えるだろうそれが確認できた。
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