132.繋がる〜ミハイルside
「落ち着け。
転移ミスの話が出た時、他の教師に紛れて転移陣の鑑定の場に同席したんだ。
まだバタついていた教師達の目を盗んで魔法で模写してここに戻った。
保険医で良かったよ。
魔法陣の設計ミスや仕掛けが施されていた場合、鑑定魔法をかけると干渉作用が起きて何かしら魔法陣の魔力の暴走や暴発が起こる事があるからな。
理由をつけて同席しやすかった。
解読には時間がかかったが、転移場所と何故AD9だけが違う場所に転移したのかはわかった。
それで説明会前にウォートンにお前を誘わせて2人を呼ぼうとしたんだが、来たのはウォートンだけだった」
「どういう事だ?」
説明会前にはシエナに絡まれた以外は誰とも話していない。
ジロリと見やれば、こいつはいつもの飄々とした様子に戻って肩をすくめる。
「何だ、やきもちかな、ミハイル君。
俺も久々にミハイル君とつもる話ができると逢瀬を楽しみにしていたのだよ?
たが声をかけようとしたら義妹殿と騒々しくやっていたではないか。
義理とはいえ兄妹の間に割って入るのは忍びなくてね」
「それは……」
あの時か。
舌打ちしたくなる。
本来ならシエナは学園の指示で理由を説明されないまま、他の1年と3年共々いち早く帰宅していたはずだった。
実際、合同討伐訓練から戻った時には俺達2年と4年だけだと聞いたから、てっきりそう思っていたんだ。
俺は転移した訓練の場から他のグループ共々、急きょ校庭に戻された。
その時には学生達の大半が戻っていて、その後すぐにその場で各クラスごとに分かれてそれぞれの担任から説明を受けた。
俺達は他の学年と違い当事者だった為、グループ番号以外は伝えられた。
ただ妹の姿が見えなかったから、嫌な予感はしていた。
だから担任が帰宅を促してからすぐ、2年Dクラスが集まる方へ向かおうとしたところで4年の学年主任に呼び止められ、場所を移して妹の行方不明を聞かされた。
既に学園から父上には連絡していたらしく、学園の遠隔通信魔法で父上の秘書を介して当主代理として説明の場に向かうよう指示された。
父上とはまだ1度も直接話せていない。
学園から王城へ行く事もあるから着替えは常に置いていた。
すぐに着替えて移動しようとすれば、どこかから義妹であるシエナが駆けてくる。
何故帰宅していないのか問う間もなく、共に説明会に参加したいと駄々をこねられたが時間がなく、歩きながら諭していた。
『放せ、シエナ。
姉が心配だとして、お前に何ができる』
『そんな!
酷いわ、お兄様。
お兄様ほどではないけど、義姉様と違って魔法の才能はあると先生方はもちろん、生徒会の皆様にもお墨付きを頂いているのはご存知でしょう!
何かできる事はあるはずよ!
だからお願い。
ね、お兄様』
いつの頃からだろうか。
こうやってそれとなく義姉を貶して自分を良く見せるような話運びをするようになったのは。
さすがに昨日の今日であまりにも鼻についた。
心配だと言うその口で何故貶すのか、意味がわからない。
掴まれていた腕を乱暴に払って苛立ちのままに殺気をまともに浴びせて黙らせた。
『今後も私を兄と慕いたいならついてくるな。
帰れ』
硬直するシエナにそう言い捨ててその場を去ったが、どこまで見られていたのか。
しかし思い返して、ふと疑問に思う。
恐らくシエナは1度も帰宅していない。
なのに何故行方不明になった者の1人が義姉だと知っていた?
そもそも行方不明になったグループ番号はふせられていたし、グループは即席のくじ引きで決まった。
グループ番号がわかっても義姉が行方不明かはわからない。
学園からは邸ではなく王城にいる父上に直接連絡がなされたはずだ。
あの父上があの母上に連絡したなど有り得ないとは思うが、可能性があるなら帰宅した時だろう。
教師が洩らした?
学園が箝口令を敷いていたのに?
愚かな学生達とは違い、少なくとも教師達は妹を公女として扱っていたのに?
不意にシエナの義姉への言動が明るみになったのが昨日だった事と、そんな義妹にどことなく色めいた視線を向けていたエンリケ=ニルティが繋がる。
まさか……。
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