123.増長させた責任〜ヘインズside
「もう何年も王宮の騎士に混じって団で訓練していたのよね?
ならこの森がAクラスの実力を持つ冒険者ですら生き残るのが難しい事くらい、耳にした事はあったはずでしょう?
まさか貴方の実力が冒険者のSクラス相当だとでも思っていたのかしら?
むしろ貴方もそこの王子もAクラスですらないのに、面白い程の勘違いさんなのね。
自分の正しい実力の程度も把握できずに過信して、主を守るどころか危険から遠ざけるという初歩的な護衛もできていない。
主を止めさえせず、あまつさえ共に死にかける護衛。
ふふふ、どれだけ滑稽なのかしら?
貴方は護衛として愚か、いえ、むしろ護衛失格ではなくて?」
「……俺に関してはそれでもいい。
真実だ……甘んじて受け入れる。
だがシュアは婚約者である公女を助けに来たんだぞ」
口の中が乾いて言葉が詰まる。
それでも得体の知れない恐怖心を煽りつづけるコレに、婚約者としての主の行動を擁護する。
しかし護衛失格でしかない俺の言葉など、そもそもコレに響く筈はなかった。
自分の長らくの婚約者であるシュアの想いなど歯牙にもかけず、ただ呆れたように笑われただけだった。
「まあまあ、本当にお馬鹿さんなのね。
そもそも王子にとっての私は名ばかりの婚約者であるのと同じく、私にとっての王子もまた名ばかりの婚約者。
それが私達の関係なのに、ここに来た理由を婚約者という言葉に絡めてどう汲み取れと仰るの?
ふふふ、これまでの彼の言動を間近で聞いていながらそんな言葉を口にするなんて。
貴方の思考回路は本当にご都合主義なのね。
未だに私が王子を慕っているなどという義妹で従妹の戯言を信じているの?
先日まで彼の正式な側近のつもりでいた貴方は、あの生徒会室での私達の会話を間近に見聞きして尚、名目上の婚約関係だけだと理解できていないのかしら?」
ただただ呆れたように微笑んで告げる言葉は、鋭利だ。
「しかも自分達が足手まといのお荷物でしかない現実を未だに受け入れられないのはどうして?
状況把握を正確にするのは、騎士に必要な素養でしょう?」
反論しようと口を開くも、騎士を持ち出された正論に1度はどうにか黙って閉じる。
「それにこの事態は容易に予測される事実であって、結果論ではなく自業自得と言うのよ?」
「なら、それなら、シュアに婚約者を見捨てる選択をする利己的な男でいろという事か?!」
しかしこれまでに馬鹿にしてきた無才無能の言葉に、黙っていられるはずもない。
反発心も顕な俺の言葉に公女は一瞬きょとんとしてから、今度は心底可笑しそうにひとしきり声を出して笑った。
「あははは、ふっ、ふふ、まあまあ、これまで散々その婚約者を公衆の面前で貶め、蔑み、嘲笑ってきたのはどこのどなた?」
「……っ」
よほど可笑しかったのか、目尻には涙を浮かべている。
これまで自分達が長らく行ってきた人としても恥ずべき行為を、他ならぬ本人に指摘されれば、その正論には何も言い返せなくなるのは必然だった。
「私達下級生グループが寝静まるのを待って私達の用意した魔獣避けを奪って逃走した、そこで転がってる2人とどこぞの公子。
どこぞの公子はその上その2人を囮にして逃げたのでしょうけれど、そんな風に彼らを増長させた責任はどなた達にあるのかしら?」
「そ、れは……」
思わずその責任がこれまでのシュアや己にあると感じて口ごもる。
それにやはりエンリケは……いや、公女の言葉が本当なら、想像以上に悪質だ。
「もしそんな事が無ければ、その子達はそんな無惨な姿にはなっていないし、どこぞの公子も現状安否不明なんて事にはならなかったはずよ?
仮にここからその2人が出られたとして、治癒魔法でムカデの毒に侵された肌の色や、そこまでの顔の火傷を痕も残さず元に戻す事ができて?
その2人は盛大なツケを払うし、それは確かに自業自得だけれど、とはいえ貴方とそこの王子に全く責任はないと言えて?」
笑いが治まったのか、良く見る淑女らしい微笑みだけを浮かべて告げられていく言葉が、心を更に抉っていった。
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