120.孤軍奮闘と虫の息〜ヘインズside

【前書き】

残酷シーンありです。

ご注意下さい。


ーーーーーーーー


「シュア!」

「す、まな……」


 蜂型の魔獣の毒針に脇腹を刺されたシュアが倒れる。


 駆けつけた俺の右上半身はこの場に来てすぐ、蟻型魔獣を切りつけた時に飛んできた火毒液を被ったせいで服が溶け、顕になった肌は火膨れを起こしたように赤くただれて腫れ上がっている。


 利き腕が使い物にならなくなったせいで上手く使えない左手に剣を持ち、蜂と応戦する。


「うぅ……か、お……わたし、の……かお……」


 いつの間にか蜂に毒針で刺されていたマイティカーナ=トワイラの左太ももは、ズボンをパツパツにさせる程に腫れ上がっている。


 しかしそれより無惨なのが、手で顔を覆いながら痛みと熱さにのたうつ彼女の顔だ。


 顔の右半分は恐らく俺が最初に切りつけた蟻型魔獣の吐いた火毒液を被っていたのだろう。


 俺の右上半身と同じく火傷したように赤く爛れて腫れ上がり、所々火膨れができている。

顔にかかった毒液を洗浄もせずに触ったのか、手にも同じような症状が見て取れた。


 元は良く手入れして艷やかだった頭髪は、毒液のせいで右側だけ短く縮れ、火膨れした頭皮が顕になっている。


「ヒッ……ヒッ……た、しゅけ……」


 駆けつけた時、ペチュリム=ルーニャックはムカデ型魔獣の顎肢に体を挟まれ、食われかけていた。


 先にシュアが火球を飛ばし、ムカデの足元の地面を焼いて食われないよう牽制した。


 その間にマイティカーナ嬢を襲う蟻を両断して討伐したものの、切った体から火毒液が噴射され、それを浴びてしまう。


 咄嗟に水属性の魔法で水を頭からかぶって火膨れが広がるのを抑えている内にと、身体強化で跳躍してムカデの顎肢を斬りつけたが、殻が硬かった。

それに利き腕を負傷して力が半減したのか、傷すらつけられなかった。


 たまたまムカデの目に向かったシュアの火球が視界に映り、咄嗟に風魔法で起こした風を纏わせて燃焼力を上げる。


 怯んだムカデは肢で挟んでいたペチュリムを投げ捨てて何処かへ去った。


 ペチュリムは何の受け身も取らなかったせいで、その体は鈍い音と共に地面に着地してしまう。


 慌てて駆け寄って体を上に向ければ、顎肢から毒液を注入されていたらしく全身を青紫色に染め、泡を吹きながら必死に空気を吸い込もうとしていた。

しかしうまくできず、仰け反って胸を掻きむしる。


 悲鳴か、短い呼吸音なのかわからない音の合間に、誰にともなくむなしく助けを呼び続けている。


 駆けつけた時にはこの2人がそんな有様だったから、グループの他の奴らがどうなったのかはわからない。

見渡しても遺体らしいものもない。


 しかし気になるのはエンリケ=ニルティだ。


『他の者達はどうした!』

『ヒッ、いた、痛い!

ああああ!

あ、熱い!』

『おい!

しっかりするのだ!』

『エンリケぇ!

あ、ぐっ、あいつ、、、の、せ、でぇ!』

『エンリケか?!

あいつがどうした?!』

『お、囮に、し、逃げ、たのぉ!

あついいいい!』


 ムカデを相手にしている間にマイティカーナ嬢へ駆け寄ったシュアとの短い会話だが、彼女の声には怨嗟がこもっていた。


 この直後にシュアは飛んできた蜂に後ろから脇腹を刺されてしまった。


 俺を除いた3人は倒れ伏し、虫の息だ。


「くそ、万事休すだ。

まさか魔獣避けがこんなに役に立たないとはな」


 飛んできた蜂の羽根に風魔法を上から当て、動きを鈍くさせて何とか切り捨てる。


 しかし集音の魔法で遠くの方からブンブンと嫌な羽音が聞こえてきている。


 蟲型の魔獣は集団で襲ってくるから厄介だ。

このままでは全員が蟲に殺られる。


 当初の予定では魔獣避けを使い、安全地帯を確保して次の結界魔法を張り直すのを結界近くで待つ予定だった。


 シュアはここへ向かう道中、この箱庭の周りの結界魔法は2種類あると教えてくれた。


 1つは高い魔力の魔獣は決して出られないタイプ。

もう1つは低い魔力の魔獣を出さないようにするタイプがあると。


 どちらのタイプも魔力がある人間にも同じく反応する。


 詳しい事は隣国との機密に関わるからと説明は簡潔に、恐らくいくらか省かれてしまっていたのは仕方ない。


 俺達が無事にここから出られて真の側近になったら、その時は教えてくれるはずだ。

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