113.蠱毒の箱庭の結界魔法〜ジョシュアside
「なるほど。
よりによって蠱毒の箱庭とはな。
しかもロブール公女が……」
学園長から事の顛末を聞かされた父上、いや、国王陛下は、薄く青みがかった銀髪にベリード家に多い朱色の瞳をしている。
俺のように濃い銀色ではないが、銀髪はその色味に違いこそあれど王家の直系によく現れる色だ。
いつもはどこか無機質さを感じさせる冷ややかで無表情な顔が、今は珍しく少しばかりの悩ましげな様相を見せていた。
「結論から言って国からの救助は出せません」
侯爵家の当主でもある薄茶色の髪をオールバックにしたやり手と称される宰相が静かに、予想通りの言葉を口にする。
見殺しにする。
暗にそう告げられた言葉に、ドクドクと心臓が嫌な音をたてる。
握りしめた拳の力が抜けない。
「何故····」
わかっていた答えにも関わらず、呆然と呟いてしまう。
「救助に人を向かわせるにしてもあの場に張っている結界魔法の性質が性質ですから」
「性質、とは?」
しかし予想しない言葉が返ってきて、鈍くなる思考に引っかかり、聞き返す。
ふと隣の学園長を見れば、こちらは知っていたかのように涼しい顔をしている。
危険だから、ではないのか?
「あの結界の目的は危険度の高い魔獣を外へ絶対に出さないようにする事です。
ですが魔法とは全てが完全で融通性があるわけではありません。
入る事は容易にできる代わりに、内包する魔力が高い生き物ほど中から出るのが難しい性質を持たせてあるんです。
ですから2年に1度結界を張り直す時、依頼した冒険者にはくれぐれも中に入らないよう注意を促し、互いに目を光らせるように依頼書にも書き込みます。
これは過去にあの場所から危険度Sクラスの魔獣が出た経緯があるからです」
「それなら危険度の低い魔獣が出てきてしまうのではないのか?」
もしそうなら、あの魔力が低い私の婚約者だけでも出られるんじゃないのか。
ふと疑問に思った事を口にして、内心驚く。
真っ先にあの大嫌いなはずの婚約者を救う道を考えた?
いや、そうか。
俺は今、よく知る者達を見殺しにする話をしている。
予想していた答えであっても、実際に安全な場所にいてそれを聞かされるのは····まるで自分が直接この手にかけているかのような錯覚を覚え、後ろめたい気持ちにさせる。
少しでもそれを払拭したかったから、そんな事を考えたのだろう。
宰相はそんな私の心中を見透かしたかのように焦げ茶色の目を細めながら続ける。
「そうならないようにあの結界魔法の周りにもう1つ、それ用の結界魔法を張り、補強し合うように2つを結びつけ、より強固なものにしているのです」
「二重結界による相互強化作用か。
しかし単純な生活魔法や攻撃魔法ならともかく、結界魔法は魔法の発動前の魔力構築がただでさえ複雑だ。
補強し合うような、意味を持たせて結びつけたりできるものなのか?
しかもそのような高度な結界魔法を毎回張り直す事が可能なのか?」
異なる結界魔法を構築し、組み合わせて補強し合うようにする。
言葉にすれば簡単だが、実際に発動させるとなるとなかなかに難しい。
依頼するのがAクラスの冒険者でも皆が皆できるとは思えない。
一体誰がそんな魔法を?
「最初にその魔法を発動させた者が結界魔法にできた綻びだけを補修して張り直せるような魔力構築を組んでいるのです。
ですから張り直すと言えば聞こえは良いですが、ベースとなる結界魔法は何十年も変わっていません。
しかし結界魔法のような類いは内と外の封じの力をバランス良く保ったり、内外共に出入りを強く弾く事が難しかった。
なので結界の内側から出ていく場合のみに重きを置いた性質を持たせたと聞いています」
つまりあの蠱毒の箱庭の周りに張られた結界魔法には、複数の性質を持たせたという事か。
しかもベースは何十年と変わっていない?
魔法師の手を離れてあんなでかい結界魔法を何十年も維持させられるほど、基礎となる魔力構築がしっかりしているという事になるが・・・・それこそこの結界魔法を初めに張った者は
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