112.四公同士の言外のやり取りと国王陛下への謁見〜ジョシュアside

「学園側の話はわかった。

このままここに留まってもやる事はない。

こうなった原因は大方推察しているが、因果関係まで調べはついているのか?」


 ミハイルが大きく、長くため息を吐いた後、学園側に尋ねる。


 原因は間違いなくあの転移陣の誤作動だ。

因果関係とは故意に行われた事の是非も含め、故意ならば誰が何の目的で行ったのかまでを意図している。


「申し訳ありません。

まだ原因とどこに転移したかまでしか……」


 2年の学年主任が心苦しそうに顔を歪め、2年の担任は頭を下げた。


 4年の担任はただ顔を青くして震えている。

ウォートンに資料を握り潰そうとした事を暗に指摘され、これまでの話でチーム腹ペコが上級生達を見放した場合の責任の所在の追求を恐れているのだろう。


「だろうな。

それならば国王に事の顛末をすぐさま報告し、学生達の救助を要請して欲しい。

あの箱庭で生き延びられたとして、それがいつまで続くかどうかはわからないはずだ。

それに妹はもちろん、チーム腹ペコの誰か1人でも使えなくなれば、結局待つのは死ではないのか」

「……っ」


 くしゃりと泣きそうに顔を歪めた2年の担任があえて言わなかっただろう事を指摘した。


 もうチーム腹ペコというネーミングが定着しているのをつっこむ雰囲気ではない。

 

 あの箱庭に転移したとわかった時点で、彼らは自力であの箱庭から出てくるしか生還の道はなく、それがあまりにも難しい道だと誰もが察している。


 それはもちろん私の隣で、己の膝上に置いた拳を無意識に硬く握りしめるミハイルもそうだ。


 それでも妹の生還という希望を捨てられず、父上、いや、国王陛下への救助の要請を急がせたいのだと察せられるくらいには、昨日の生徒会室でのやり取りは記憶に新しい。


 使えなくなる、か。


 恐らくこの資料にある事を実行された場合も含めた可能性を示唆しているのだろう。


 先ほどウォートンがさらりと流したこの手元の資料の件を、妹に何かあれば流すつもりはない。

ミハイルはウォートンに言外でそう告げたのだ。


 四大公爵家公子のエンリケの兄であり、ニルティ家当主代理は先ほど彼の口から絶望的という言葉が口を突いた時の表情から、恐らく既に弟を切り捨てている。

それをミハイルも気づいたに違いない。


 あの言葉にはチーム腹ペコに見捨てられて命を落とす事態はもちろん、仮に弟が生還してもニルティ家は見捨てるという意味も含まれていると直感した。


 あの自嘲気味の笑いは、決して仲が悪くない弟を次期当主として切り捨てると瞬時に判断した自分への自嘲だろう。


 兄弟仲はあのプライドの高いエンリケから兄の実力を認める発言を聞いた事があるくらいだ。

良好と言えるだろう。


 改めて四大公爵家の当主となる者の厳しさを肌で感じる。


「では国王陛下への要請と因果関係を含めた調査を随時知らせるという事で、この場はお開きにしてもらおうか。

本来なら国王陛下には事前の謁見申請が必要だが、事が事だ。

私とロブール家当主代理の方から当主を通してすぐに連絡がいくよう取り計らおう。

第2王子殿下からも生徒会長として、ロブール家公女の婚約者として口添えを頼みたい」

「そうしよう」


 ウォートン=ニルティの言葉にすぐさま了承する。

ミハイルも無言で頷き、四公同士での言外のやり取りと牽制が終わりを示す。


「最低でも日に2度、進展がなくとも朝晩には俺達の家に報告をしてくれ。

この事態が学園側の落ち度である事の責任は追求させてもらう。

こちらからもすぐに各所へ知らせを出すから、そちらも迅速に動いてくれ」

「そのように」


 ミハイルの気持ちを汲み取ったからとは思えないが、ニルティ家他いくつかの家門の代理を務めるウォートンは話をそう締めくくる。

重く受け止めたような神妙な顔で了と答えた学園長の言葉が言い終わらないうちに立ち上がって出て行った。


 ミハイルも学園長の言葉に頷くとすぐに出て行く。


 その後は先に通信用魔法具で知らせを出して学園長と共に城へ急ぎ、国王陛下への謁見となった。


 いくつかある城の小会議室の一室に俺と学園長が通されてすぐ、国王陛下と宰相が入室した。

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